顔の崩れた男
ぽん
第1話
私が中学生の頃、私立中学のため電車を利用して通学をしていました。
日付けは忘れましたが、寒い時期です。
いつものように特急から各駅に乗り換えるために
駅のホームで電車を待っていると目の前を通り過ぎる人々の中に異様な人がいました。
いまでも覚えています。
すれ違うなんて一瞬の出来事ですがその時は違いました。
その男が右から視界に入るなりスローモーションのように視界は歪み、長い時間、男と目が合っていた錯覚に落ちました。
男は横目で私を見ていて、私は男の崩れた顔、まるで雪だるまが溶けたような顔に恐怖を感じ背筋が凍りました。
所々に火傷で負ったであろう水膨れや、度を越した腫れがあり顔の原型を留めておらず、
溶けた顔が重いのか、崩れ落ちるのをとめようとしているのか左手で垂れた頬らしき所を支えていました。
私は恐怖から左に過ぎた男が本物なのか見ることができませんでした。
電車がくるまでの数分間「見ちゃダメだ、見ちゃダメだ。」と繰り返し電車がくれば大丈夫、乗ったら大丈夫と頭のなかで念じてました。
電車がきて乗り込むと息を止めていた?のか
安心からなのか全身から汗が吹き出し
息も上がり心臓の鼓動も早くなっていました。
席に座って休みたい一心ですぐ近くの席に座り
一旦落ち着こうと深呼吸。
そして冷静に考えよう…と思いました。
不思議なことに、考えれば考えるほど悪いことばかり思いついてしまうもので一向に落ち着きませんでした。
「まさか、同じ電車に乗っているのでは?」なんて考えが出た時は左を見たくて見たくて仕方がなかった。
いないことを確認しなければ安心できないと思いました。
3駅越え、後ひと駅で最寄りの駅という所で
意を決して左を確認しました。
先頭車両に乗っていたので前方は行き止まり、
その運転席につづく扉の前にその男は立っていました。
私をずっと見つめていたのか、目が合った。
瞬間に身の危険を感じ背もたれにくっつき左を見ないように座りなおしました。
他の乗客はそんな男なんていないような、澄ました顔で座っています。
最寄りの駅に着きましたが、降りたくても降りれず…体が重く動けませんでした。
しかし発車のベルがなると体が軽くなり、扉が閉まるギリギリで電車から飛び出し、その勢いで改札を通り
振り向いてはいけないと一目散に自宅に帰りました。
それからというもの顔の崩れた男に会うことはありませんでした。
過去の遺物。忘れたい思い出。と何年か経ち高校生になりました。
私立中学を卒業後、エスカレーター式で私立高校に行きましたが上手くいかず、都立に編入し
通学も電車ではなくチャリがほとんどとなり、
電車を使う時は違う路線を使っていた。
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