理由の与奪

 目の前に段があるから、のぼり続ける。たったそれだけだったのに、いつしか人々は私を見て褒め言葉ばかりを口にするようになっていた。

『頑張っているね』

『偉いねえ』

『ほら、あんたたちもあの子のことを見習いなさいよ』


 優しい言葉たち。甘くてうっとりしてしまう、暴力的な言葉たち。

 知らなければ、よかったのに。


 ――もっと私を見て。認めて。


 のぼる必要のない階段を探し、駆け上がっていく。

 私を見て微笑み、称賛の声をかけてくれた人々は、笑みを見せなくなった。

『そんなに頑張らなくたっていいじゃない』

『どうしてやめないの! そのままじゃ体を壊すでしょう!』

 そのうち困惑し、勝手に腹を立てて、ついにはいなくなってしまった。


『どうしてのぼっているの』なんて。

 意味を、理由を与えたのは、あなたたちなのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る