第49話 絶叫

愛子と健太君が戻ってから、井口君は再度口を閉ざしてしまったんだけど、愛子はトイレに行ったことで復活したのか、今度はお化け屋敷を指さした。


「次、あれ行こう!!」


乗り物に乗るタイプではなく、歩くタイプのお化け屋敷だったんだけど、並んでいる最中、ずっと結衣子ちゃんと話をしていた。


私たちの順番が近づくと、後ろにいたはずの鈴本君は、結衣子ちゃんの腕ではなく、手をギュッと握りしめ、さっさと前に行ってしまう。


「何名様ですか?」


「二人です」


係員の質問に、躊躇することもなく、鈴本君は『二人』と言い切り、さっさと暗闇の中へ。


『鈴本君って、もしかして?』


そんなことを考えていたら、愛子が井口君の腕を掴んで、私の前に割り込んできた。


「何名様ですか?」


「ふた…「四人です」


井口君は愛子の言葉を遮り、係員に答えたんだけど、愛子の表情は一瞬にして曇り、私をにらんでくる。


正直、そんな風に睨まれたとしても、健太君と二人で入りたくない。


宙を見て視線を逸らすと、愛子は井口君の腕に腕を絡ませようとしたんだけど、井口君は大きく腕を振り、愛子の手を振り払っていた。


『完全脈なし…』


そんな風に思いながら暗闇の中を数歩歩くと、足元にあった非常口案内の光で、井口君の靴紐がほどけていることに気が付いた。


「井口君、靴紐、ほどけてるよ?」


愛子はそんなことも気が付かず、ゆっくりと一人で先に行ってしまう。


「先行って」


井口君は健太君にそう伝えたんだけど、健太君は不満そうな表情をし、井口君に食って掛かった。


「はぁ? 何言ってんの?」


「あいつ、どんどん先に行っちまうぞ? 女一人で行かせる気? 優しくねぇなぁ~。 それって男としてどうなん?」


健太君は言い返す言葉がないのか、愛子の後を追いかけていた。


井口君が靴紐を結びなおし、二人で後を追いかけたんだけど…


少し距離が開いているせいか、お化けの姿を確認する前に、愛子と健太君の耳をつんざく叫び声が響き渡り、全然怖くない。


『二人とも、ビビりすぎじゃない?』


井口君と肩を並べて歩いていると、二人の速度が遅いせいか、二人との距離が詰まっていた。


しばらくゆっくり歩いていたんだけど、二人の叫び声のせいで耳が痛い。


耳の痛さを感じながら、二人と距離を取り歩いていたら…


「きゃああああ」


「うぎゃああああ」


今までよりもさらに大きな悲鳴が耳に突き刺さる。


「痛っ…」


耳の痛さに耐えきれず、思わず片耳を抑えてしまうと、愛子と健太君が悲鳴を上げながら駆け出し、私と井口君は置いてけぼり。


『ダサい… ダサすぎる… 二人ともダサすぎる…』


片耳を抑えながら完全に呆れかえり、ふと見ると、お化けの格好をした人が、両手を上げている状態。


空気か固まったかのように、お化け役の人を見ていると、お化け役の人は軽く会釈をしながら先に進むよう、手のひらで誘導していた。


「す…すいません…」


お化け役の人に会釈をしながら1歩歩こうとすると、すぐ横で井口君がブッと噴き出す。


「何?」


「お化けにお礼すんな!」


「だって! 誘導してくれたじゃん!」


「そういう問題じゃないだろって! マジウケんだけど!!」


井口君の笑い声のせいか、ただただ暗いだけで、恐怖心はなく、笑いあいながらお化け屋敷を後に。


お化け屋敷を出ると、健太君はなぜか偉そうに切り出してきた。


「お前ら遅すぎだろ。 なにビビり倒してんの?」


『ビビり倒してんのはそっちでしょ… ホントダサすぎるんだけど… なんでこんな人を…』


後悔に近い気持ちを抱え、大きくため息をついていた。

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