第45話 言葉
井口君と別れ、自宅に帰った後、ベッドに倒れこんだ。
…なんでここに呼び出した?…
…『俺は黒髪ロングじゃないと嫌だ』って、あいつの見た目と正反対のことを言ったんだよね…
…別れた後、友達に戻っちゃいけないなんてルールあんの?…
…そっちのほうが可愛いよ…
頭の中には、健太君から言われた言葉と、井口君から言われた言葉が頭を駆け巡る。
『健太君、髪のことに触れてこなかったな… こんなに切ったのに、気付いてなかったのかな…』
大きくため息をつき、すぐ隣で喉を鳴らし始めたマルを撫でていた。
翌日になっても相変わらず、井口君と健太君の言葉が頭を離れない。
1時間目が終わっても自分の席に着いたまま、ボーっと頭から離れない言葉を思い出していると、すぐ目の前で手を振られ、ハッと気が付くと結衣子ちゃんが不思議そうな表情をしていた。
「元気ないけどなんかあった?」
「ううん。 何でもないよ」
「そう? そろそろテストだし、青山さんたちがまた一緒に勉強しようって。 マルちゃん見たいって言ってたよ」
「うん。 わかった」
返事をした後、そのまま結衣子ちゃんと話していたんだけど、二人に言われた言葉が頭を離れてはくれなかった。
テスト1週間前になると、愛子にお弁当を渡さなくて済み、青山さんと磯野さんの4人で勉強をするように。
テスト期間を迎えても、相変わらず4人で集まり、勉強ばかりをしていたんだけど、テスト最終日に青山さんが切り出してきた。
「テスト休み中遊びに行こうよ! 若菜もバイト無いっていうし! ね!」
「良いけど、超金欠だよ?」
「その辺は任せて! ね!」
青山さんは笑顔でそう言った後、磯野さんと話し始めていた。
数日後、電車を乗り継ぎ、青山さんに言われた駅で待ち合わせ、青山さんの家へ。
青山さんは磯野さんとお金を出し合い、ケーキを買っていてくれたようで、4人で食べながら話していると、磯野さんが突然切り出してきた。
「二人って彼氏いるの?」
「急にどうしたの?」
「あれからだいぶ経ってるし、出来たのかなぁって」
「できてないよ」
「じゃあ好きな人は?」
磯野さんの言葉を聞き、一番最初に浮かんだのが井口君のことだった。
「い…いないよ。 私より結衣子ちゃんのほうが気になるなぁ~。 好きな人いるの?」
さりげなく話を結衣子ちゃんに振ったんだけど、結衣子ちゃんは顔を真っ赤にさせて狼狽えるばかり。
『もしかして、鈴本君かな?』
そうは思っても、言葉に出すことができず、青山さんと磯野さんの3人で、結衣子ちゃんのことをからかいまくっていた。
夕方近くになり、結衣子ちゃんと途中まで一緒に帰ったんだけど、自宅最寄り駅につくと同時に、健太君の後ろ姿が視界に飛び込んだ。
なるべく距離を詰めないよう、ゆっくりと歩いていると、背後から肩をたたかれ、振り返ると千絵が笑顔で立っている。
「よ! お出かけ?」
「うん。 千絵は?」
「おつかい~。 お母さんが忘れ物したから、会社に届けろって」
そのまま話しながら歩いていると、健太君は当たり前のように愛子の家へ。
「あの二人、やり直した系?」
不思議そうに聞いてくる千絵に、健太君から言われた言葉をそのままいうと、千絵は呆れかえったようにつぶやいた。
「あり得なくね? つーか、健太君、中学の時はそんな人じゃなかったよね?」
「高校入って変わっちゃったっぽいよ。 どうでもいいけどね」
ため息交じりに答えた後、妙な寂しさが襲い掛かってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます