第31話 本性
井口君と通話をした数日後の週末。
特にやることもなく、ベランダでマルのブラッシングをしていた。
ブラッシングをした後、マルと二人で日向ぼっこ。
ボーっと空をながめていると、かすかに雨の匂いを感じていた。
『どっかで雨降ってるのかなぁ… 』
流れる雲を見ながら、そんな風に思っていると、すぐ近くに置いてあったスマホが震え、見覚えのある番号が表示される。
『健太君だ…』
考える隙もなく、スマホをもとの場所に戻し、ボーっと空を眺めていると、着信音が鳴りやみ、すぐにまた鳴り始める。
仕方なく、大きくため息をつきながら電話に出ると、騒がしい騒音とともに、健太君の声が聞こえてきた。
「もしもし? 若菜ちゃん? 今何してる?」
「空見てた」
「はぁ? 空? バカかよ…」
笑い飛ばすように言われた言葉に、カチンときたんだけど、グッとこらえ切り出した。
「何?」
「今さ、駅前のゲーセンにいるんだけど来ない?」
「行かないよ。 これから雨降りそうだし」
「雨? こんなに天気がいいのに降るわけねぇじゃん」
「雨の匂いするじゃん」
「はぁ? 耳鼻科行ったほうがいいんじゃねぇの?」
呆れかえったように言い放たれ、再度カチンと来てしまう。
「とにかく行かないから」
そう言い切った後、すぐに通話を終わらせると、どっと疲れが押し寄せてきた。
液晶を見ると58秒と表示されている。
『え? 1分も経ってなかったの? 1時間以上通話してたと思ったのに、すんごい疲れた…』
再度、鳴り始めたスマホの電源を切ると、ふと過去のことが蘇ってくる。
中学の時は、健太君よりもイケメンで、スポーツ万能、成績優秀な男子がいたから、女子からの人気はいまいちだったし、存在自体が影に隠れていた。
けど、誰に対しても分け隔てなく優しく接し、他人を小ばかにするような態度をとったことがない姿に惹かれていたんだけど、さっきの通話は『別人か?』と思えるような態度だった。
『健太君、雨の匂い、感じないんだ… 高校入ってからキャラ変わったのかなぁ… 今のあれが本性だったのかなぁ…』
徐々に広がっていく黒い雲を眺めながら、大きくため息をついていた。
数時間後、部屋でレポートを書いていると、窓を叩く雨の音が聞こえてきた。
『やっぱり降ってきた…』
そんな風に思いながら課題を終え、スマホを見ると、電源を落としたままだったことに気が付いた。
何気なく電源を入れ、少しすると、井口君からラインが。
“バイト終わった! 雨の匂いしたからやばいかと思ったけど、ギリセーフで帰れた!! 若菜は何してた?”
大した内容もないラインだったんだけど、なぜか気持ちが落ち着き、ホッと胸をなでおろしていることに気が付いた。
『井口君からのラインでホっとしてる? なんで? んなわけないじゃん』
投げかけられた質問に返事をすることもなく、スマホをマルの下に忍ばせ、浴室に向かっていた。
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