第32話 拉致

健太君から電話が来てから数週間たち、再度テスト期間がやってくる。


相変わらず、磯野さんと青山さん、結衣子ちゃんの4人で勉強をする日々が訪れたんだけど、青山さんが思い出したように切り出してきた。


「結衣子って彼氏いんの?」


「いないよ~」


「んじゃ好きな人は?」


「えっと… それは… そんなことより! ここテストに出るって言ってたよ!!」


顔を真っ赤にしながら話を逸らす結衣子ちゃんを見て、ものすごくかわいらしい存在に思えていた。


しばらく結衣子ちゃんを冷やかした後、再度勉強を続けていたんだけど、結衣子ちゃんの好きな人がわからず、聞き出していいものかどうなのか、わからなくなっていた。



テスト期間を終え、テスト休みに入ると同時に、結衣子ちゃんに切り出され、再度泊まりに行くことに。


結衣子ちゃんは、ラインで朋美ちゃんから執拗に連絡が来ているようで、『あんたたちのせいで成績が落ちた』と言われまくっていたらしく、ラインを見せながら話を聞いていた。


私はブロックされているから気が付かなかったんだけど、朋美ちゃんはテスト期間中にもかかわらず、美穂ちゃんと遊びまくっていたようで、毎日のようにタイムラインに大量の投稿が。


完全に自業自得の結果なんだけど、その責任を結衣子ちゃんに押し付けようとしているようで、結衣子ちゃんは頭を抱えていた。


「ブロックしちゃえば?」


「そうしようかな…」


「精神衛生的によくないし、ブロックしたほうがいいような気がするけどなぁ」


結衣子ちゃんはさんざん悩んだ結果、ブロックすることはせず、朋美ちゃんの行動を見ているようだった。


その後、結衣子ちゃんに切り出され、少し離れたコンビニへ。


コンビニに向かっていると、マンションの中から鈴本君が出てきた。


「あ、若菜ちゃんだ」


「…家、ここなの?」


「みちるちゃんがね。 兄貴に着替えを届けに来たんだよ。 千円GETした。 どこ行くの?」


「コンビニだよ」


「マジ? 奇遇じゃん。 俺も公園行くとこだから行こうぜ」


「は?」


鈴本君は私の言葉なんか聞かず、結衣子ちゃんの腕をしっかりとつかみ歩き始める。


結衣子ちゃんの表情は少しずつ赤みを帯びていき、耳まで真っ赤になっていた。


『もしや、結衣子ちゃんの好きな人って…』


そんな風に思いながら二人を追いかけ、公園に着くと同時に、視界に飛び込んだのは井口君と中尾君、佐伯君の姿。


嫌ぁなことを思い出していると、井口君は驚いた表情をしながら私に駆け寄ってきた。


「あれ? どうしたん?」


「コンビニ行こうとしてたから拉致った」


鈴本君は悪びれる様子もなく言い切っていたんだけど、結衣子ちゃんの腕を離そうとはしない。


そんなことは気にせず、井口君は私に切り出してくる。


「マジ? んじゃうちに泊まる?」


「はぁ? 何言ってんの?」


「弘樹たちと徹マーする予定だったけど、若菜が来るならキャンセルするよ?」


「いかない! 行くわけがない!!」


「いいじゃん。 朝まで語りつくそうよ」


「話すことなんてない!!」


「えー… んじゃ少し離れた場所にすんげー景色の綺麗なとこがあるんだけど、そこに行かない? バイクの後ろ乗ってさぁ」


「どう考えても、免許取って1年経ってないからダメ!」


「どうしても! すんげー綺麗だから、若菜に見せたいんだって!」


「見たくない!!」


『ナンパ師の本領発揮? いきなりなんなんだよ…』


そんな風に思いながら井口君の誘いを断り続けていたんだけど、ふと気が付くと結衣子ちゃんと鈴本君がいない。


「あれ? 結衣子ちゃん…」


「弘樹とコンビニ行ったよ」


「嘘! 置いて行かれた!?」


「若菜ちゃんが逃げられないように拉致ったんじゃね? すぐ戻ってくると思うよ」


中尾君の言葉にため息をつき、しつこく誘ってくる井口君と言い合いを続けていた。

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