第29話 裏切者
朋美ちゃんから呼び出された文化祭を終えた後、後片付けをしていたんだけど、朋美ちゃんと美穂ちゃんは私に近づくこともなく、遠巻きに睨んでくるだけ。
朋美ちゃんの言っていたことは、ほとんどが勘違いなんだけど、井口君の口にニンジンを持っていき、食べさせたことは軽率な行動と捉えられてもおかしくない。
井口君に対する行動は、『軽率』と捉えられてもおかしくないんだけど、どうして健太君が私の彼氏ということになっているのかがわからない。
確かに、健太君の同級生たちがふざけた口調で何かを言っていたけど、どう考えても、冗談としか捉えられないような口調だったし、D組で起きたことだから、店番をしていた朋美ちゃんたちが、それを知ることもないはず。
考えられるのは愛子なんだけど、愛子はうちの教室に近寄ろうともしない。
『めんどくさいなぁ…』
ため息をつきながら後片付けを終え、急いで学校を後にしていた。
数時間後、結衣子ちゃんの部屋で話していたんだけど、結衣子ちゃんも『美穂ちゃんが井口君のことを好きだった』ことは、微塵も感じなかったようで、不思議そうな顔をするばかり。
不思議そうな顔をする結衣子ちゃんのことを見ていると、ふとあることを思いついた。
「…もしかしてさ、美穂ちゃんのことをナンパしたのかな?」
「それはないと思うけど…」
「でもさ… サーファーだし…」
「それは偏見でしょ? ナンパしないサーファーだっていっぱいいるじゃん」
「そりゃそうだけどさぁ…」
考えながら話していると、結衣子ちゃんのスマホが鳴り、結衣子ちゃんは大きくため息をついた。
「どうかした?」
「朋美ちゃんに、別荘持ちってことがバレちゃったんだよね… それ以降、『裏切者』って呼ばれちゃって…」
結衣子ちゃんはそう言いながら、ラインを見せてくる。
見せられたトーク画面には、朋美ちゃんの恨み辛みがたっぷりとこもったメッセージが書いてあったんだけど、結衣子ちゃんのことを『裏切者』と呼んでいた。
「うわぁ… 別荘のこと、なんでバレたの?」
「中尾君と佐伯君が話してたところに偶然居合わせて、聞いちゃったみたい。 毎日のように、ラインで『タダで、送迎ありで泊まらせろ』って言われてさ… 食事は自分たちで準備しなきゃいけないんだけど、『お手伝いを雇え』って、無茶苦茶なことを平気で言ってくるんだよね… 磯野さんたちが話しかけてきてくれて『ラッキー』って思ってたんだ」
その後も結衣子ちゃんの話を聞き、ひと段落すると、結衣子ちゃんはすっきりした表情で切り出してきた。
「コンビニ行こっか!」
結衣子ちゃんの言葉で、嫌な記憶がよみがえると、結衣子ちゃんは苦笑いを浮かべてくる。
「少し遠いけど、この前とは違うコンビニ行こ。 多分、そこなら会わないから」
結衣子ちゃんの言葉に了承をし、家を後にしたんだけど、周囲が気になって仕方ない。
周囲を気にしながらコンビニに向かい、誰とも会わなかったことにホッと胸を撫でおろしていた。
お菓子や飲み物を買った後、コンビニを後にし、結衣子ちゃんの家に向かっていると、背後から肩をたたかれ、振り返るとみちるさんが笑顔で切り出してきた。
「お久しぶり! 何してるの?」
「友達の家に泊まりに来て… みちるさんはどうしたんですか?」
「さっきまで大学の友達と飲んでて、その帰りだよ」
その後も歩きながら話していたんだけど、ふと結衣子ちゃんとの会話を思い出し、みちるさんに切り出した。
「あの、みちるさんってナンパされたことってありますか?」
「ナンパ? ないけどなんで?」
「サーファーってナンパしまくってるイメージがあるっていうか…」
「あ~。 確かにそういう人もいるけど、ごく一部だよ。 少なくとも、私の周りにそういう人は一人もいないね」
はっきりと断言するみちるさんに、それ以上何も言うことができず。
どうして井口君が私にナンパをしてきたのか、どうして美穂ちゃんが、話したことも、共通点もない井口君のことを好きになったのか、考えれば考えるほどわからなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます