第15話 好きだったよ

理玖は

大学を卒業後

就職し

そこで知り合った女性と

26で結婚

今は3歳の女の子と1歳の男の子のパパ

週末には

地域の子供たちにサッカーを教えているらしい


「子供の保育園の友達に

同級生の子とかもいてさ・・・

そうそう

由香ちゃんの長男と次男は俺がサッカー教えてるんだよ」


知らなかった・・・

理玖って由香ちゃんと仲いいんだ…

由香ちゃん何も言わないから・・・


「そうなんだ」


理玖は私の顔を覗き込んで


「知らなかった?

佐久間さん、由香ちゃんと仲良かったから

聞いてるって思ってた」


どうして

佐久間さん何だろう?

由香ちゃんは由香ちゃんなのに

距離を感じる


理玖って呼んじゃダメだよね・・・


だって

彼が佐久間さんって言うし

奥さんに悪いよね


「変わってないね」


理玖はそう言って笑う


「そう?」


理玖は、うんうんと頷きながら


「変わってない

考え込む感じとか

口数が少ない所とか」


そして私の方を懐かしそうに見て


「好きだったな~

全部、好きだった

毎日毎日、好きが増していって

俺、どうかしちゃうかも!って不安になるくらい

好きだった」


どうして?

どうしてそんなに爽やかに言うの?


あんあに傷つけたのに・・・


「ありがとう」


そう言うしかない


「今日は、健人に会った?」


ニコニコとした理玖は

そのままの表情で聞く


首を横にふる


「あいつ

マジで佐久間さんの事好きだったからな~


今日、来るって聞いて

"ちゃんと話しかけろよ"

って言ったんだけどな…

まだ、来てないのかな?


あの後さ

あいつずっと佐久間さんの事を引きずってたんだよ」


「えっ?

真田くん

直ぐに彼女できたよね?」


「すぐ別れたよ

あの子には悪いけど

俺に対してのカムフラージュみたいなもんだろ…あれは」


「どういうこと?」


「佐久間さんに興味ないって

俺にアピールしてたんだよ

でもさ、俺達は親友だよ


そんな嘘、意味ない


だから

”俺のために身を引くみたいなこと止めろ”

”自分の気持ちに嘘つくな

俺を親友だと思うなら

ちゃんと向き合え!!”

って言ったんだ」


意味が分からない

確かあの日

真田は言ってたじゃない

ちょっと興味が出ただけだって

つまみ喰いだって

理玖・・・聞いたよね


「その顔は・・・分かってなかったの?」


理玖は呆れた顔をした


「あいつがあんな強がりいうなんて

嘘じゃん

アイツが悪態つけばつくほど

俺には

”佐久間さんが好きだ”

”理玖が大切だ”

って言ってるようにしか聞こえなかったよ

あいつ

辛かったと思う

俺が先に”協力して”なんて言ったから

言いそびれたんだよ

そういう奴だからさ・・・健人って」


「分からないよ

そんなの…」


「健人の事好きだったくせに

全然、分かってなかったんだね

アイツの”嘘”は嘘じゃないんだ

”本気じゃない”は”本気”なんだ

とくに

大切な相手に対しては・・・

いつだって

相手の事ばかり考えて

拗らせちゃうんだよ

あいつ不器用だからさ・・・」


何それ

何なのよ

二人だけ分かり合って

ズルい

今更そんな事聞かされても

遅いよ


「高校入って

佐久間さんに自分の気持ち

言いに行けって背中押したけど

ダメだった

あれからずっと

酒飲むと

あのときの話に戻る

あいつの中では終わってないんだよな~」


そうなんだ…

そんなこと知らなかった


「だめだねアイツ

だからさ、話してやってよ

ちゃんと佐久間さんと向き合えたら

アイツも進めると思う」


私はまだ

理玖の話す話の内容が頭に入らないでいる


「俺はさ

あの日、終わたんだ

あの日、二人が抱き合ってるの見て

健人が本当に辛そうな顔してるの見て

しかも

佐久間さん

メール返事ないし

朝会ったら

あからさまに迷惑だって顔してるし

終わってたんだ

悔しかったし

辛かったけどさ

健人は佐久間さんの事が好きだったし

佐久間さんは健人を選んでたよ」


そう言う理玖に

私は首を横に振って


「違う

そんな事ない

私、本当に理玖の事が好きだった」


「健人の事は?」


「・・・ ・・・好きだった」


理玖は下を向いて


「困ったな

佐久間さんは素直な人だから

そんな事そんな真っすぐに言ったらさ・・・

悪い女みたいだよ」


私は本当い好きだった

二人を

同時に好きになってしまった

どちらの方がなんてない

理玖といる時には理玖が好きで

真田といる時には真田が好きだった

それが悪い女って言われてしまっても

それが真実だった


「そういう素直なところが

魅力なんだろうな

良いとか悪いとかそんなんじゃなくて

素直なんだよ

素直すぎるんだよ

そんなんじゃ

これからも苦労するよ」


理玖はにっこり笑って

私を見る


「ごめんね

あの時、真田君の事も好きになって」


理玖は首を横に振った


「もういいよ

もう昔の事だよ

しこたま傷ついたけどね」


そう言って微笑んだ


遠くから

女子数人がこちらに声をかける


「理玖!浮気しようとしてるの?」


あの時の派手目の友達だ

かなり酔っている


「バカじゃねーの

俺の愛妻っぷりをお前ら知らんのか?」


そう言って彼女たちの方へ行こうと立ち上がり

数歩、歩いて振り返る


「ちゃんと向き合ってね

佐久間さんも逃げないでよ

俺のために」


そう言って

微笑むと

仲間たちとふざけながら行ってしまった


少しスッキリした

理玖と再会し

彼が幸せになっている事や

あの頃の思いを聞けたこと

そして何より

自己満足になるけども

”ごめんね”と言えたこと

由香ちゃんに言われた通り

ここへ来てよかった





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