第12話 拳

私は泣き崩れる理玖の前に座りなおす


「理玖・・・」


名前は呼んだけど

その先が続かない


理玖は

”ハーハー”

と息を吐きながら泣いている


「理玖・・・ごめんなさい

こんなに悲しませて」


すると理玖のスマホに着信


”ピピピピピッ”


理玖は大きく深呼吸して出る


「もしもし・・・うん

うん・・・上がってきて」


そう言うと

下から誰かが上がってきた


”ガチャ”


ドアが開くと

真田


真田は理玖を見て

私を見て

もう一度、理玖を見た


「どうして?」


私が言うと

理玖がこちらを見て


「さっきメールした

学校さぼってリンと話すって

・・・心配して来たんだろ?」


そう言うと

真田は理玖から目を逸らす


「もう何も隠すな!

お前さ

リンの事が好きなんだろ?」


そう言って

理玖は真田の胸ぐらをつかむ

真田はその勢いで

壁に背中を打つ


「いてぇ

いてぇよ!理玖」


そう言って

理玖の腕をつかんで離す


「俺、言ったよな

リンが好きだって

お前・・・"頑張れよ"って

言ってくれたよな」


理玖が問い詰めるように言うと

真田は鼻で笑って


「ごめんごめん

お前があんまり惚気るからさ

興味出ちゃっただけ

ちょっと摘まんでみたくなっただけ」


「何だよそれ!!」


「好きとかじゃねーし」


「何だよそれ!!」


「ヒマつぶしに近いやつ」


「お前・・・」


「大丈夫だって

喰ってねーから

そこまではしないよ

お前のもんだろ?」


「・・・」


「あっ

ごめん

ちょっと舐めたけど

そのくらい

でも、いらねー!俺好みじゃねーし!!」


「お前最低だな・・・」


「お前が純粋すぎるんだよ

いつまでもガキみたいだから

俺なんかに簡単に摘ままれるんだよ

バーカ」


真田がそう言うと

理玖は真田を思いっきり殴った


倒れ込んだ真田に馬乗りになって

何度も何度も


「理玖!理玖!!やめて!!!」


私が理玖の後ろから抱きついて

それを止めるけど

理玖がやめようとしない


だけど

直ぐに気が付いた


真田は理玖に一度も抵抗していない事

理玖が腫れあがった

真田の顔を見ると

真田の目には涙が・・・


「健人・・・」


理玖が小さな声で名前を呼ぶと

真田は理玖を押しのけて

フラフラと何も言わずに部屋を出て行った


その背中は

寂しそうで

悲しそうで

それを見送った後

理玖は自分の拳を何度も床に叩きつけて

また泣いた


私はその音を聞きながら

まるで私が殴られているような感覚で

鈍く重く痛かった

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