カウントダウン4 ナイトの駆け引き

 ほとんど両親との思い出がない僕が持つ、唯一の良い思い出。


 忙しい両親に訪れる奇跡的な休日は、決まって近くの喫茶店に連れて行ってくれた。

 老夫婦が経営するこじんまりしたお店だ。

 沢山のカップが並ぶちょっぴり薄暗い店内には、カウンターの他にテーブルが二つしかない。


 今思えばごく普通の喫茶店なんだけど、人が一人通れるくらいの扉をくぐる時、幼い僕はいつもと違う世界へ冒険に行く錯覚で胸が躍った。

 あの秘密基地のような狭さが、非日常観を際立たせていたのかもしれない。


 四人掛けのテーブル席に着くと、僕たちは決まってマスター特製の塩スパゲティを注文する。あの喫茶店の鉄板に乗ったスパゲティは、マスターの出身地北海道の文化の一つらしい。


 あつあつの鉄板で跳ねるオリーブオイル。

 シンプルな味付けで引き立つキャベツと玉ねぎの甘味。

 さりげなく隠し味を加える煎り卵。


 子どもにとっては少し重たいフォークも、より料理を美味しく感じさせる。


 現実を忘れさせてくれる塩スパゲティは、昔から僕にとって特別なんだ。


 あと、マスターがサービスで出してくれる、メロンソーダもね。

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