陽の中に散る花よ

青夜 明

日の中

 小さい頃のある日、お姉ちゃんと椅子に座って、僕は膝を抱えて 、ただ待っていた。

 どれくらい待ったのか、それとも、そんなに時間が経っていなかったのか、分かんないけど、軍の人が現れて終わったと言った。

 僕らは手を繋いで、親がいる病室に向かった。


「これで自由になったんだ」

「良かったねえ」


 お母さんもお父さんも嬉しそうに笑っていた。片手で泣いちゃったお姉ちゃんを抱きしめて、そう言っていた。僕は、ただ、それを眺めていた。

 二人の足はもう動かなくて、もう片手は包帯につつまれていて。

 なのに、何だ、これは。理解ができない。


「平和でいられる。陽鳴子ひなこ陽花ひばな、俺達は自由だ。"やった甲斐"も、あるってもんだ」

「でも、もううごかないのに……」

「良いの、陽鳴子。戦争に縛られるより、よっぽどいいの」


 そう言って幸せそうにするこの光景が。おかしいと。思うのは。……僕の方がおかしいからなんでしょうか。

 気が狂っている、と。わざと怪我をしてもどうせ無駄だと思うけど、と。明らかにおかしなものを、"幸せ"だと見せつけられる、これが、変だと。


「陽花、いらっしゃい」


 ふと、視線が集まる。手を差し伸べられる。


「……」


 離れることなく、その大好きな手の元に行ってしまう、僕は、きっと、甘い奴なんだろう。……何も言わずに、呆れた目も閉ざした。


 今の世で、一番残酷な相手は誰か。力のない人間、戦争の為に作られた機械、唯一無二の魔力を持つ魔人、異様な力を持つ、人間を超えた亜人達の存在……。勿論、後者になるにつれて脅威になる。

 それでも、僕は一番人間が恐ろしく、残酷だと思っている。命を兵器にしておきながらも、時に不要だと捨て、私利私欲で血の流れる喧嘩もしているのだから、とんでもない存在だ。

 と言っても、両親が世の考えを疑問に思っていたおかげで、僕もお姉ちゃんも、極力戦いから離された生活を送れていた。

 両親が怪我を負っていなかった頃は、よく軍から使者が来ていたけれど。


『戦争の為に登録申請を行えと、いつまで通達させる気だ』

『あたしはか弱い女の子なんです! 陽花だって、あの子はあたしより小さいんだから!』

『女の子でも戦わなければならない、それが戦争の普通だ!』

『それが普通の……普通の女の子ってなんでしょうか!』

『掟は掟だ! このまま負けても良いのか!』

『勝ちたいなら自分達で宜しくやっててください! あたし達は知りません!』


 何度同じ会話が交わされても、僕は、運命なんて変えられないと思っていたんだ。


 でも、まさか、炙り出しだなんて。



 ● ● ●



 気付いた時には、もう、全てが燃えようとしていた。

 部屋にいた僕は、逃げ出そうとは思ったんだ。でも、何処にも逃げ道がなくて、右も左も正面も後ろも絶体絶命で。

 もたもたしていたら、倒れてきた家具に足を取られて、地面に突っ伏して、潰された両足の重みが、嫌な熱さに変わっていく。

 呼吸しても楽になることはなくて、それどころか、蝕むほどせき込んで……

 燃える、しょーもない家族も、思い出も、足も、この体も、人生も。僕はもう、何処にも行けない。


「はなしてぇっ!」


 声が、聞こえてくる。切なく、辛い声が。行かなければと身体を動かそうとした、けれど、疲れてしまったのか、指先も反応を示さない。煙のせいか、視界が滲んでいく。


「……ひばなぁ!」


 名前を呼んでいる――お姉ちゃんが――陽花、ひばなは、陽鳴子お姉ちゃんと――

 一緒に生きたかったよ。

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