異端児たちに劇的で平凡な青春を

@karukaru0531

第1話 とある異端児

「これを見て――何か言うことはないかな」

 そう言って、私の担任の古桜先生は、眼前に紙を突きつけてきた。

「……ああ、学年末テストの結果ですか。流石私、1や2だらけですね」

 ま、勉強に関して自信はある方なのだ

「違う。通知表だ」

「……」

「第一、お前、学年末テストはサボったじゃないか」

「すいません。忘れてました」

「いや、それよりもだ。その問題よりも問題、というか大問題なのが――」

 問題がないことが、PTAで問題になっていた私に一体どんな問題が――

「昨年度の授業日数207日のうち、お前の出席日数はたったの27日だ。しかも、その中で、遅刻17回――早退14回ときた。」

 なんだそれ、大問題過ぎるだろ。

 遅刻と早退のコンビネーションを決めた日もあるじゃねーか。

「何のための全寮制だよ」

 でも校舎までけっこう遠いんだけどな……

「普通の高校じゃ、進級できないどころか、退学処分ものだ。そして、修了式も来ないから、春休みにきてもらったってわけだ。つーか修了式ぐらいは来いよ」

「すいません。忘れてました」

「……さっきから、忘れてました、忘れてましたって、そんなわけねーだろ」

 先生は、格段冷たい目をして言った。


「《完全記憶体質》の青春好春あおはるこはる


         ******


 割合にして、300人に1人程――

 先天的な特異体質――

 特徴も、程度も、千差万別――

 神のいたずらか、悪魔の罠か――

 あるいは人の気まぐれか――


 人は崇める、天才として――

 人は恐れる、天災として――


 そして人は彼らをこう呼ぶ――――


      《異端児マーベリクス


 って7年と134日前のテレビで言ってたな。

 

 そんな異端児のために、偏見や差別から守るために、建てられた学び舎、万色学園よろずいろがくえん

 約25㎢の広大な敷地に7棟の校舎と100棟の生徒寮、さらに数多くの商業施設や娯楽施設、住宅街が立ち並ぶ世界トップの学園都市。

 全校生徒10531名、その99%がなんらかの特異体質を持って生まれた異端児である。

 そして、何より特筆すべきは異端児推薦により、異端児はほぼ確定で入学できる上に、授業料、寮費は全て無料。

 常時帰宅部としては最高の練習環境だ。


『始業式は、絶対に来いよ』


 って、先生に釘をさされてるからな……

 もう睡眠時間(2回目)なのに……

 仕方ないから、制服に着替え、寮を出る。都市循環バス(もちろん無料)に乗り、校舎に着いた。

 ん、玄関にいるのは、古桜先生だ。

 先生ってば、お出迎えまでしてくれちゃって、余程私に会いたかったんだな……

 まぁ、やわらかな春風に心華やぐこの今日に、新たな学友たちと顔を合わせ、談笑と洒落込むのも悪くはない。

「おい」

「おはようございます。先せ――

「始業式、昨日だぞ」

 

 劇的で平凡な青春はまだ始まったばかりなのだ

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