第13話 思慕

 王としての義務。

 愛する者への慕情。


 どちらも手から落とせず、進めたのは、死出の道のほかに無かった。


 未来を見据え、覚悟を決めていたのだろう。


 その日の二年も前から譲位のために準備を進め、半年前に王位から退いていた。そのため混乱は最小限に抑えられた。


 表向き、セレスタンの死は突然の病死とされ、ユルシュルの死は秘匿された。しかし、父母の痛ましい生涯を大いに悼んだ若き王により、二人の遺体は同じ棺に納められ、そのまま厳重に封を施されて王家の霊廟に安置された。


「……では、わたくしをいつくしんでくださっているミラベルお祖母さまは」

「もとは亡くなられたユルシュル殿下の侍女に就かれておいでの方で、その頃から王家の信任厚い、高潔な御方と存じます。すべてをご承知の上で、ユルシュル殿下の御為に、女性としての人生を惜しむことなく捧げられました。セレスタンさまも心から信頼されて、妃として大切にしてこられたのです」

「ええ、お祖父さまは、いつも、お祖母さまを尊重なさっていらしたわ。でも、わたくしは何も知らなかった。本当のお祖母さまのこと。お父さまは、ご存知なの?」

「立太子の直後にセレスタンさまから大まかな事情はお聞きになり、お会いになられたそうです。ミラベルさまからも、お元気であられた頃の思い出などを、よく、お聞きになっておられますよ。ご幼少のみぎり、遊び相手として侍っておられたので、ユルシュル殿下のことを誰よりも理解なさっておられますから」

「わたくしにも、お話しくださるかしら」

「勿論でございます。同じ名を持つユルシュルさまが、お尋ねになれば、とても喜ばれるでしょう。今でも変わらず、ミラベルさまはユルシュル殿下を慕わしく想っておいでと聞いております。御存命のあいだは、妃となってからも、時間が空けば側に参じて仕えられていました。ゾエとドニとともに、永遠に殿下を主人あるじと定めておられるのだそうです」

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