第12話 真実

 クーランシュティムの王家に古くから伝わっていた、邪術がある。

 邪神と契約することで、願いを叶える。

 しかし、代償が必要だ。

 血と苦痛の叫びを、一定期間、捧げねばならない。

 ただし、それは国に繁栄をも齎す。

 契約者の願いを叶えるのは、あくまで契約者の血を一定量、流せば済むこと。けれど、契約そのものに、生贄を必要とするのだ。長い期間。


 『聖なる光』と呼ばれる生贄の人柱。

 その生涯、奉仕の儀式から逃れられない。

 新月を挟む10日間。

 拷問により血を流し、苦悶に声を上げる。

 それが、儀式。


 先先代の王エドモンが、その契約を結んだ。

 そして、生贄には甥のセレスタンが立てられた。

 長い期間、セレスタンには惨い仕打ちが続けられていた。

 しかし、エドモンの王女ユルシュルが、彼を愛し、救おうと、身を投げ出したのだ。


 贄の入れ替え。


 その方法は、邪神と彼女しか知らない。

 当事者のセレスタンですら、正確なやり方は知らぬままだ。知っていれば、ユルシュルに更に入れ替えを施しただろう。彼も彼女を愛したから。


 入れ替えの負担は大きく、彼女は廃人さながら、生きる人形となった。


 それでも、贄の儀式は続けるほかない。

 止めれば、国が災厄に襲われる。滅亡するまで。


 そこで悩んだセレスタンは、彼女の指先から血を僅かに流させ、肉体の交わりによる苦しみを共にする道を選んだ。流す血の少なさは、自らの腕を傷つけることで補った。二人で一つの贄となる。自分が長く置かれた命をも危ぶむほどの拷問を、彼女に与えないために。


 妃を娶りながらも、その身分の低さを理由に王妃の称号は与えず、ユルシュルが産んだ王子の母となることを求めた。一族に与える一定の優遇を約束として秘密を共有するように。

 善良な心根の妃は全てを承知し、王子と秘密を守った。


 だが、やがて、セレスタンは肉体の衰えに、贄の儀式を勤められなくなっていく。


 愛する彼女の身体に大きな傷など負わせられない。

 意志のない彼女を他の男に任せるなど許せない。


 悩んだ末に、彼は、自分たちの贄としての人生を終わらせることを選んだ。


 定められた期間が始まる前夜。


 彼女の胸を突き、息絶えたのを確認してから、自分の喉を掻き切った。

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