第10話 愛憐
限界まで責めて、ついに果てると、抱きしめたまま眠りに落ちる。
そして夜半に目が覚めた。
室内の灯りは一つ。
それを背に、ソレは立っていた。
「ふふふ……」
女のような笑声。
「セレスタン。我が贄だったモノよ。おまえの選択は間違いじゃない」
楽しげな口調だが、嘲りに満ちている。
不快な声だった。
「血はあまりに少ないが、元の贄である、おまえの血を足せば、まあ、耐えられぬことはない。そして甘い苦悶」
歌を披露するような調子の話しぶりだとセレスタンは思った。
「交合の苦痛は、思ったよりも、美味なモノだ。心が湧くな。女の贄には、相応しかろう。とくに、心を交わせず、情を通わせているモノ同士のソレは、我には甘美だ。気に入ったぞ、可愛いセレスタン。愛らしいユルシュルに秘儀を教えた甲斐があった」
「……贄の入れ替えをユルシュルにさせたのは、おまえか、邪神」
「死にそうだったからね、セレスタン。おまえが。ソレじゃあー、ツマらない。じつに呆気ない。
ユルシュルの願いでもあった。おまえを呪いから解放したいと我に願った。父親と同じく邪神を利用しようとは、傲った娘だ。その理由は、まるで逆だがな。
ふふふ。面白い。嬉しいねぇ、育てた贄が、男女の交わりも叶えたのは初めてだよ。皆、それまで生きられなかったもの。でも、長く生かせると、こんなに楽しいものを見せてくれるんだね。
いいよ、セレスタン。本当なら、ちゃんと拷問しないと駄目じゃないかと言うべきところなんだろうけど、我は気に入った」
黙って睨み上げるが、邪神には痛くも痒くもないだろう。
軽い笑声を響かせて、影が宙に浮く。
「愛すれども応えはない。ユルシュルは、その苦しみに悦ぶことを知らぬまま。セレスタン。その嘆きも、我は愛おしく思うよ」
くすくす笑いを残して、邪神は消えた。
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