シュヴァルツァー・リッター

猫町大五

第0話

 遠未来。人類が宇宙に進出してから数世紀。所謂“スペースコロニー”と呼ばれる、宇宙に浮かぶ人工の大地。その一つが今、滅びようとしていた。

 逃げ惑う人々。しかしその一つ一つが一瞬にして赤く染まり、次第に黒ずんでいく。その背後には・・・奇妙な人型の姿があった。


『全高二メートル、重量二百五十キロ、全備重量三百五十キロ。装甲材、特殊高張力鋼板。三十ミリ高速徹甲弾まで防御可能』


 そんな奇妙な言葉を垂れ流しながら、漆黒のパワード・スーツは発砲を続ける。――と。


『待て!待ちたまえ!!何故我らの大地を破壊する!!』


前方に装甲車、そしてパワード・スーツの集団。その先頭から、絶叫に近い声。


『確かに、君の試作案は優秀だった!!だが兵器というのは、性能だけで決まる訳では無いのだ!!』

『当然、存じ上げております。しかし――私達への仕打ちが、果たして妥当であったのでしょうか?』

『・・・何?』


 漆黒のパワード・スーツから、含み笑いが漏れる。


『軍採用のパワード・スーツ、その不正入札問題――ネタは報道各所に流しておきました。嫌な時代ですねえ?』

『・・・貴様ッ!』

『この機体の性能が、そこの木偶の坊より優秀であることは断言します。そして――それ以外の部分で劣っている事も。しかし、しかしですよ?・・・不平等、これは宜しくない。碌な試験も無しに不採用通知という名の紙切れ一枚、それを文句無しに受け取る事に、黙って“はいそうですか”と首肯できる程、私は出来た人間では無いものでして』

『その結果がこの殺戮か!!』

『その通り。しかし、あなた方がもっと早くその装甲車やら木偶の坊やらを、この私の機体に差し向けることが出来たのなら・・・と、考えはしませんか?――ああ、無論そちらの非効率的で下らない“お役所体制“という奴は、あなた方軍人の名誉の為に加味しない事としましょう。後、これは殺戮であるということは否定しませんが、ただの殺戮ではありませんよ?』

『何だと?』

『・・・本来為されるはずだった採用試験、実際の使用環境に基づいたデモンストレーション、ですよ。結果はご覧の通り。汎用型ながら市街戦を重視した武装及び構造が、想定通りの働きをしてくれました』

『住民を虐殺しておいてか?!』

『言ったでしょう、デモンストレーションだと。つまり此処は既に戦場で、そこらの死体は我々に害為す敵なのですよ。この結果を見事と言わずして、どう表現せよと?』


 瞬間、漆黒のパワード・スーツの装甲が爆ぜる。


『おやおや、これはこれは。友軍から攻撃を受けました。この際の交戦規定は・・・一体どうなっているのです?』

『貴様は友軍などでは無い。この地を破壊する敵勢力だ』

『そうですか。ならば――こちらも、それ相応の対処をさせて頂きます』


 そして、双方の戦いの火蓋が切られる。

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シュヴァルツァー・リッター 猫町大五 @zack0913

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