こーちゃんの星導

露草 ほとり

 こーちゃんは、私よりも早く寝る。電気を消すのは、いつも私だ。


 リビングを見回すと、カレンダーの下に置物が転がっていた。それらは数日置きに、ちょっとずつ置場所が変わっている。

 昨日はマルマルだったし、今日はカクカクだった。明日は・・・変わるかな?

 毎日ってほど確かにでもないけれど、大体は毎日何か変わっている。


 アホだなぁって思う。


 こーちゃんが寝ていても、不思議と、そこに気配がある。私が遅く帰ってきても、その悪戯いたずらみたいな置物は私を和ませた。


 現実に色々飲み込めないことがある時に、そういうことに救われた。浮かれて忘れてどこか危ういところへ出かけたくなる時も、ここへ帰ってくるのが楽しみになった。


 夜、こーちゃんが寝る少し前、気付いたことを知らせる会話を一言二言交わす日がある。

 こーちゃんは、自信ありげに笑う。天才でしょ?って。愛嬌に満ちた顔で。

 うん、すごくいい、と私は微笑む。

 媚びたりしないがツボを抑えている。ズルい。


 こーちゃんは、そっとこちらを気にかけて、何も傷つけないような変なものを置く。些細などうでもいいことが人の手で変化したことが、日々を、確かに彩る。ここに、私以外の人が飾らず心を開いて息をしている。私が大事な場所を大事にしてくれる。


 私はこーちゃんの何でもないし、こーちゃんは私の何でもない。詳しく話すと長いから書かないでおく。それは、何でもない、としか言えない。

 たまたま、今、同じ空間を共にしているだけだ。



 その空間や、何でもない関係がどうして生まれたかや、こーちゃんがどんな人か、っていうのは、それぞれの中にあっていいと思う。

 そういう夜の温もりを一度でも持っていれば、案外それが世のすべてじゃないかって何もかも明るく光った瞬間を、思い出してほしいの。


 意外とそれは、ずっと一緒に居た関係に名前が付けやすい誰かや、毎日会っている誰かとの会話よりも、力を持ってしまうことがある。不思議ね。

 こーちゃんと空間を共有しなくなる時に、私は決して引き止めたりはしない。

 私が誰かのこーちゃんだった時、そうしてもらう方がカッコイイ、美しい、ときっと思うもの。


 代わりに、細やかな見えないお話を大事にしていたことを、暗い夜の星導ほししるべにするの。


 私はパチンと電気を落とす。

 こーちゃんの置いた星座版に貼った蓄光のシールが、まだ光っている。

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