もうすぐ雨が

春嵐

もうすぐ雨が

 もうすぐ雨が降る。いや、降ってほしいという、希望的観測。雨が降れば、また彼女が。

 そこまで考えて、また、ため息。

 彼女は、もう、いない。急にいなくなった。

 梅雨がないと言われていたので、雨に出会う回数は少ないと思っていたのに。彼女がいなくなってしまってから、雨が降るなんて。

 雨が降ると、彼女と自分の仲は、深まる。お互いに、何か特殊なことをするわけでもない。ただ普通に、部屋にいるだけ。普通に生活しているだけ。それだけで、何か、通じるものがあった。

 そう。雨の、雰囲気。

 雨音。少しかげった景色。そして互いの、感覚。すべてが、やさしく、融ける。そんな感覚があった。雨の日だけの、ふたりだけの、幻想。

 すべてが、まるで夢だったかのように、思い出される。もうここにはない、幻想。彼女の面影。さびついてしまったみたいに、どこか遠くにある感覚。

 彼女のいない、ひとりだけの部屋。

 雨が、降ってきた。

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