第117話 幼馴染の秘密
「で、ラブリンはこんなところで何をしていたのかな?」
ニコニコと笑顔を浮かべる愛乃さんがラブリンに問いかける。
「いや……あの……違うんですラブ。こ、こいつが! こいつが明里の幼馴染を名乗って、ラブリンに襲い掛かって来たんラブ!」
「へー。そうなんだ。で、それがラブリンがこんなところにいる理由になるのかな?」
「あ、いや……その……」
「ねえ、ラブリン。私、言ったよね。誰に見られているか分からないから、一人で勝手に動かないでって。せめて、私に許可を取ってからにしてねって。約束、したよね?」
愛乃さんと言えば、誰に対しても優しく可愛らしいことで多くの人に愛される美少女だ。
そんな愛乃さんの笑顔を見ているのに、何故か俺は先ほどから凍り付きそうなほどの寒気を感じていた。
「……すいませんラブ」
「次からはちゃんと言ってよね。とりあえず、残りの時間はここにいていいけど、誰かに見つからないように気を付けてよ?」
「分かったラブ」
ラブリンが土下座をする。その姿を見た愛乃さんはため息を一つついてから、俺の方に視線を向けた。
「悪道君」
「は、はい!」
愛乃さんの笑顔が少しだけ柔らかくなった気がしたが、さっきの恐怖が蘇り声が僅かにうわずった。
「昼休み、屋上に来てもらえるかな?」
「あ、はい。分かりました」
「それじゃ、戻ろっか。次の授業始まっちゃうし」
腕時計に目を向けると、愛乃さんの言う通りいつの間にか一限と二限の間にある休憩時間になっていた。
なるほど。どおりで愛乃さんがここにいるわけか。
叱られてしょんぼりしているラブリンを置いて、愛乃さんが屋上を出て行く。
それに続いて俺も屋上を後にした。
教室に戻ると、クラスメイトの多くが俺に生暖かい視線を送って来ていた。星川の方をチラリと見ると、星川は俺の方をボーっと見つめていた。
しかし、俺に見られていることに気付くと直ぐに視線を逸らした。
はぁ……。やっぱり、変わりなしかぁ。
星川の反応に困惑しつつ、自分の席に戻り授業を受ける。
星川が目も合わせてくれなくなったこと、喋る淫獣に出会ったことと考えることが多すぎて授業中は全く集中できなかった。
そうこうしている内に昼休みがやって来た。
「悪道、飯食おうぜ。幼馴染に見捨てられちまった哀れなお前にジュースでも奢ってやるよ」
昼休みが始まるなり直ぐに佐藤が俺に声をかけてくる。
「気持ちは嬉しいんだけど、今日は先約があるんだ。悪いな。後、まだ見捨てられたと決まってないから。今はちょっとすれ違ってるだけだからな」
「幼馴染のすれ違いって大抵そのまま取り返しのつかないことになるけどな」
冗談っぽく言いながら佐藤が笑う。
今の俺にとってはマジで笑えないんだが。
「不吉なこと言うなよ。まあ、とりあえず俺は行くわ」
「おう。ちなみに、用事って何なんだ?」
「愛乃さんに屋上に呼ばれてるんだ」
「「「……は?」」」
俺がそう呟いた瞬間、佐藤を含め、近くにいた男子たちが一斉に目を見開いて俺の方を睨みつける。
やべ……。何か嫌な予感がする。
「じゃあ、俺はもう行くわ!」
目が血走っているクラスの男子たちが動き出す前に教室を出て、急いで屋上に向かった。
屋上の扉を開けると、そこには既に愛乃さんと星川の姿もあった。
「ほ、星川もいるのか?」
「私がいたら悪いの?」
俺の言葉を聞いた星川はムッとした顔を浮かべてそう言った。
「いや、悪くないぞ。ただ、少し驚いただけだ」
やっぱり、星川、愛乃さん、淫獣が関係しているんだな。
「悪道君、他には誰もいないよね?」
「ああ。俺だけだ」
「なら、良かった。じゃあ、扉に近いと誰かが来たときに聞かれちゃうかもしれないから、こっちで話そっか」
そう言うと愛乃さんは扉から離れた屋上の端を指差す。俺はその言葉に頷きを返し、愛乃さんと星川、ラブリンを名乗る淫獣に続き端の方へ歩いて行った。
「さて、それじゃ話をしよっか」
「ね、ねえ……かのっち。本当にあっくんに話さないとダメなの?」
話をしようとする愛乃さんの裾を星川がつまむ。星川の表情は険しかった。
「ラブリンの存在が知られちゃった以上、悪道君も無関係でいられないよ。それに、多分悪道君には協力してもらった方が明里ちゃんのためになると思うよ?」
「うぅ……。それは分かってるんだけどさ……。私、あっくんにこのこと隠し通すために絶交するって言っちゃったのに台無しだよ」
「め、面目ないラブ」
星川がラブリンを睨みつけると、ラブリンが申し訳なさそうに頭を下げる。
「……ん? じゃあ、もしかして今からの話を俺が知ると星川にとって不都合なことがあるのか?」
「まあ、そうと言えばそうかな。正直、あっくんにだけは知られたくなかったんだけど、こうなったら仕方ないよね。あっくん! これからかのっちが話すこと聞きたい?」
星川が真剣な表情で俺に問いかけてくる。この話を聞けば、恐らくもう後戻りは出来ないのだろう。
だが、愛乃さんはさっき俺に協力してもらうことが星川のためになると言った。つまり、この話を聞くことで俺は星川の力になれるかもしれないということだ。
それならば、迷うことはない。
「聞かせてくれ。俺は星川の力になりたい」
「も、もう! そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ……」
俺の言葉を聞いた星川が恥ずかしそうに視線を逸らしぶつくさと何かを呟く。
「じゃあ、決まりだね。ところで、悪道君はイヴィルダークって名前を聞いたことある?」
星川が納得したことを確認した愛乃さんが俺に問いかける。
「ああ。昨日、ちょっと見たな。全身黒タイツの変質者集団だろ?」
「うん。まあ、そんな感じ」
俺の言葉を聞いた愛乃さんは苦笑いを浮かべていた。
「それじゃ、イヴィルダークから街を守るために戦っている女の子たちは知ってるかな?」
愛乃さんの問いかけで昨日の出来事を思いだす。
愛乃さんが言っているのはまず間違いなくピンク色と黄色に輝く美少女二人組のことだろう。
「ああ。昨日、助けてもらったな。とんでもなく可愛い女の子二人組だったからよく覚えてる。そういや、あの黄色い方の人は星川に似てたんだよな」
「うん。それはそうだよ。だって、その子は明里ちゃんだもん」
顔色一つ変えずに愛乃さんはそう言った。
「……え?」
「ついでに言えばもう一人は私だよ」
「……は?」
愛乃さんは何を言っているのだろうか? アニメに出てくるようなフリフリの衣装を着た美少女の正体が愛乃さんに星川?
確かに、二人は昨日見た二人組に負けないくらいの美少女だ。何なら星川は黄色の人に勝っているまである。
だが、その二人と愛乃さん、星川には致命的な違いがある。
「いやいや、髪の長さも違ったし、髪色も違うじゃん」
昨日見た二人の髪色は綺麗なピンクと黄色だった。だが、愛乃さんは黒髪、星川は茶髪気味の黄色い髪だ。
愛乃さんは全く違うし、星川も微妙に違う。
「まあ、話すより見てもらった方が早いかな。明里ちゃん、いい?」
「あ、うん!」
星川が返事をすると、二人はお互いに目を閉じて胸の辺りに両手を持っていく。
次の瞬間、二人を強い光が包み込んだ。
目がっ!! 目がああああ!!
目を両手で抑えて、暫く待っていると光が収まった。
「悪道君、目を開けて」
「……マジか」
愛乃さんに言われ、目を開けると確かにそこには昨日見た二人がいた。ピンク色の人は平然としていたが、黄色の人は恥ずかしそうにしていた。
「悪道君、これで分かったでしょ?」
ピンク色の人、愛乃さんであろう人が聞いてくる。
流石にこれは信用せざるを得ない。まさか、星川と愛乃さんにこんな秘密があったとは……。
それにしても綺麗だな。てか、身に付けてる衣装ってどうなってるんだ? 早着替えとは思えないし……。
「あ、あっくん……。そんなにジロジロ見られると恥ずかしいんだけど……」
「あ! わ、悪い」
星川らしき黄色い人に言われ、慌てて目を逸らす。
「それじゃ、元に戻ろうかな」
「うん! 早く戻ろ!」
愛乃さんと星川の身体を再び光が包み込む。そして、光が収まるとそこには星川と愛乃さんの姿があった。
「なあ、一つ気になったんだが、何で二人はそんな格好で戦っているんだ?」
「それはラブリンが答えるラブ!」
俺の問いかけに意気揚々と手を挙げたのはラブリンだった。
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