第36話 学園祭二日目開催中!
愛乃さんが屋上を出て、暫くするとイリス様が屋上にやって来た。
「ごめんなさい。待たせたかしら?」
小走りで駆け寄ってくるイリス様。今日の格好は学校指定の制服姿だ。
昨日はメイド服やら、アイドルの衣装など普段では絶対に見れない素敵な衣装をたくさん見ることが出来た。
だが、やはり普段の制服姿というのも、毎日食べるお米のように、抜群の安定感がある。
今日もイリス様は可愛い。
「さっきまで愛乃さんと話してたから、全然待ってねえよ」
イリス様の可愛さを確認したところで、イリス様に返事を返す。
「それならよかったわ」
俺の返事を聞いたイリス様は、安堵の表情を浮かべる。だが、直ぐに真剣な表情に変わった。
「今日、あなたを読んだのは、どうしても聞きたいことがあったからなの」
「聞きたいこと?」
「ええ。その……」
イリス様が、少しだけ恥ずかしそうに俯く。そして、顔を上げて、真剣な表情で口を開く。
「お、男の人が喜ぶプレゼントって、何かしら?」
……ん? ……オトコノヒト?
「すまん。ちょっと耳が遠くてよく聞こえなかった。もう一回だけ教えてもらってもいいか?」
「え、ええ。男の人が喜ぶプレゼントを教えて欲しいの」
……聞き間違いじゃなかったああああ!!
は、はあ!? 嘘だろ!? 男の人? プレゼント?
そんな、イリス様からプレゼント渡すなんてプロポーズじゃん! 結婚じゃん!
いや、待て。もしかするとイリス様は騙されているのかもしれない。
そうだ。イリス様の思い人は、イリス様にこんなに思われているというのにイリス様の前から姿を消したバカだ!
もしかすると、イリス様の好意を利用して金品を要求しているのかもしれない。
「すまん。関係ないかもしれないけど、何でプレゼントを送ろうと思ったのか教えてもらってもいいか?」
ここで、もしイリス様が『相手からお願いされたの』と言えば、完全に黒。何としてもイリス様の思い人の身辺調査をする必要がある。
だが、もし万が一、いや、億が一イリス様自身が心の底からプレゼントを贈りたいと思っているのであれば……! 俺は血の涙を流しながら全力でイリス様の手伝いをするしかない。
「そうね……。お礼かしら。これまで、私はたくさんのものを貰って来たから、今度は私が彼に与えられる人になりたい。彼にいつ会えるか分からないし、渡すタイミングもいつになるか分からないけど、でも、今のうちから考えておきたいの」
胸に手を当て、イリス様はそう言った。
その表情は切なげで、でも、どこか希望に満ち溢れていた。
「そう、か……」
残念なのか、良かったのか分からないが、イリス様の思い人は、少なくともイリス様に貢がせるような男ではないみたいだ。いや、寧ろイリス様の反応からして、相当いい奴な気がする……。
「……分かった。俺でよければ、手伝えることは手伝う」
もし、イリス様とイリス様の思い人を無理矢理離したとして、その先でイリス様は笑えているだろうか。
いや、きっと違う。そう考えれば、俺には二人の仲を切り離すようなことは出来なかった。
「ほ、本当かしら!?」
俺が頷くと、イリス様は安堵の表情を浮かべる。
「良かった……。こういうことは、男の人に相談したかったけど、中々相手が見つからなかったの。善道君は、私を恋愛対象として見ていないと言ってたから、やっぱり、あなたにお願いして良かったわ」
「そうか。それで、プレゼントの件だが、また今度でもいいか? 出来たら、白銀さんの考えとか、白銀さんがプレゼントを渡したい相手のこととかも教えて欲しいから、また時間があるときにしよう」
「そ、そうね。なら、また連絡するわね」
そう言うと、イリス様は俺に背を向ける。
だが、屋上から出る途中でイリス様が振り返る。
「昨日は、ありがとう。でも、無茶はしないようにしなさい」
「はい!!」
俺の返事を聞いたイリス様は微笑んでから、屋上を後にした。
美しいいいい!!
やっぱり好きだ! 付き合いたい! 結婚したい!
……でも、イリス様にはちゃんと好きな人と結ばれて欲しい!
あああああ!! これが、ジレンマ!!
暫くの間、俺は頭を抱えて身悶えていた。
***
十分が経過し、心がある程度静まった俺は,スマホを取り出して、星川に白銀さんとの用事が終わったというメッセージを送る。
すると、直ぐに星川から返信が返ってきた。
星川:じゃあ、十分後に校門付近集合ね!
何故、校門付近? と思ったが、星川なりの考えがあるのだろうと思って気にしないことにした。
校門付近へ向かうと、そこには星川と見知らぬ男が二人いた。いや、よく見れば見知らぬ男たちではない。
あいつらは、以前イリス様をナンパしていた男たちだ。
「へいへーい! お嬢さん可愛いね。今一人?」
「ちょっとお兄さんたちと一緒に遊ばない?」
ニタニタと下品な笑みを浮かべ、星川に迫っていくナンパ男たち。
「友達を待ってるんで、遠慮したいかなーって」
苦笑いを浮かべながら後ずさる星川。
「えー! いいじゃん! なら、その友達も一緒に遊ぼうぜ」
「そうそう」
星川のやんわりとしたお断りの言葉を無視してグイグイと攻めていくナンパ男たち。その積極性だけは評価したい。
だが、それ以上の暴挙を許すわけにはいかない。
「星川。悪い、遅くなった」
「あっくん!」
星川の下へ歩いて行き、星川に声を掛ける。俺に気付いた星川が俺の名を呼ぶとともに、ナンパ男たちも俺に視線を向けた。
「あん? 誰だよおま……え……ひっ! お前は、あの時の!!」
「やべえやつ!」
失礼な。誰もやばくなんてない。
「あの時、慈悲深きイリス様に見逃されたって言うのに、まだこんなことしてるとはな……。もしかして、またイリス様を狙いに来たのか?」
指をコキコキと鳴らし、拳を見せる。
「ひっ! に、逃げろおおお!」
「お、おい! 待ってくれよおおお!」
ナンパ男たちは背を向けて走り去っていった。
逃げ足速すぎだろ……。
「あ、あっくん……。た、助けてくれてありがとね」
俺の服の袖を掴んで、星川が呟く。いつもよりもその声は弱弱しかった。
まあ、いきなり自分より年も身長も上の男二人から詰め寄られたら恐怖心も感じるか。
「気にすんな。当たり前のことしただけだからよ。それより、さっきのことは忘れて、楽しもうぜ。学園祭、回るんだろ?」
「う、うん! そうだね。じゃあ、あっくん! 一緒に学園祭回ろ!」
いつもの元気を取り戻したのか、笑顔で俺の手を引っ張る星川。
そのまま、俺たちは学園祭を順に回っていった。
「あ! あっくん! 射的だって!」
「おう。射的だな」
「ア、アカリンに総司令!? まさかデート!?」
射的をしているクラスに行けば、星川とデートしていると勘違いされた。
「あ! あっくん! わたあめだって!」
「おう。わたあめだな」
「ア、アカリンとわたあめの食べさせ合いっこだとおおお!! 総司令! 俺はお前を嫉むぞおおお!!」
わたあめを買えば、アカリン教徒に正面から嫉妬された。
「あっくん! お化け屋敷だって!」
「おう。お化け屋敷だな」
アカリン教徒は今日も元気だなと思いながら、お化け屋敷に入る。
***
「くくく。新たな男女のペアが来たか。お前は果たして恐怖に顔を歪める彼氏の姿を見ても幻滅せずにいられるか――アカリンとデートだとおおお!! 許さん! 全力を尽くして、男を恐怖のどん底に突き落とせええ!」
「俺たちも手伝うぜ」
「私も手伝うわ」
「ア、アカリン教徒の皆……。ありがとう。供に戦おう」
「「「おう!!」」」
***
お化け屋敷は二クラス合同で作られており、高校生が作ったとは思えないほどの完成度の高さだった。
「わー! 思ったより暗いし、気温もちょっと下がってるような気がするし、凄いね!」
「割と余裕そうだけど、星川はお化け屋敷とか得意なのか?」
「得意って程じゃないよ。怖いって思うしね。でも、嫌いじゃないかな! こういうのってスリルがあって面白いじゃん!」
どうやら、星川は中々に強いメンタルを持っているらしい。
「ところで、あっくんは? お化け屋敷とか得意なの?」
「ふっ。愚問だな。いついかなる時でも大切な人を守るためには、お化けなんてものに負けられない。こんなお化け屋敷で俺をビビらせることが出来るならやってみて欲しい――」
『コロオオオオス!!!』
突如、壁の横からナイフを持った男が現れ、俺目掛けて突っ込んできた。
「ひょええええ!!」
その濃密な殺気に、命の危険を感じた俺は悲鳴を上げ、横っ飛びで男を躱す。
男が通り過ぎて、残るのは床に横たわる俺と、その俺を見つめる星川だけ。
「……ビビった?」
「……ビビってない」
「あははは! もー絶対ビビってたじゃん! しょうがないなあ、あっくんは。はい」
笑いながら星川が俺に近寄り、手を差し伸べてくる。
「あ、ああ。ありがとう」
その手を掴み、身体を起こす。だが、身体を起こした後も、星川は俺の手を放そうとしなかった。
「ん? 星川? もう、いいぞ」
「ダメだよ。ビビりのあっくんがいつ逃げ出しちゃうか分かんないからね。ちゃんと手を繋いで、逃げられないようにしないと! それに、手繋いでる方が、怖くないでしょ?」
断ろうかと思ったが、星川の表情がどこか強張っているところを見て、そのまま手を繋ぐことにした。
何だ。怖がってるのは星川の方か。恐らく、さっきのも驚きすぎて声が出なかったとかいうパターンだろう。なら、素直になれない星川のために人肌脱ぐのも、友達である俺の役目か。
「はいはい。なら、お願いするよっと」
星川の手を繋ぎ、再びゴールへ向けて歩き出す。
「コロスコロスコロス」
「羨ましい妬ましいその場所をよこせえええ」
「ふひっ。あの男の皮を被れば僕があの場所に……ふひひ」
何だこの声?
至る所から呪詛のような言葉が聞こえる。正直、本気の殺気が混ざっていて怖い。
「星川、何か変な声聞こえないか?」
「へっ!? あ、ご、ごめん。私は、何も聞こえないや」
俯いて歩く星川に声を掛ける。
何か星川も様子が可笑しい。やっぱりビビってるんだろうか?
「星川大丈夫か? 怖いなら途中でリタイアしてもいいんだぞ」
「ううん! だ、大丈夫大丈夫! ちょっと緊張しちゃってただけだから! ほら、行こうよ!」
まあ、星川がそう言うならいいか。
そのまま星川と供に歩く。それからは地獄のような時間だった。俺にとって。
何故か、仕掛け人たちは俺にばかり攻撃を仕掛けてきた。
星川からは見えないから、俺の頬をこんにゃくのようなもので殴ってきたり、俺の脇腹に弱めの電流を流したりしてきた。
そして、今も俺の首筋に冷たい何かが流し込まれた。
「うおお!!」
首筋に手を当てると、そこにはスライムがあった。
「あっくん? また?」
星川がニヤニヤとした笑みを浮かべて俺の顔を覗き込む。
こうやって、俺ばかりに攻撃が集中するせいで星川の前で何度も悲鳴を上げてしまった。おかげで、俺は星川に完全なるビビり判定を受けたのだ。
「もーあっくんは、本当にビビりだね。あ! でも、もうすぐゴールだよ! ほら、行こ!」
星川が俺の手を引いて、ゴールを目指す。
それなりに楽しめたな。でも、最初のあの殺気は結局何だったのだろう……。
そう思った直後だった。
俺の足が誰かに捕まれる。
「ひひひっ。お兄さん……本番はこれからだよ~」
その声から絶対に逃がさないという執念を感じた。
無理矢理逃げようかと思ったが、腰や腕を掴まれ、間にあわないことを悟る。
「あっくん……?」
前に進まない俺を星川が心配そうに見つめる。
「……俺を置いて先に行け」
「な、何で!? ゴールはすぐそこだよ?」
「いいから、行け……! 星川は、ここにいていい人じゃない」
「何言ってるか分かんないよ!」
俺の方に近づく星川の手を振り払い、星川の身体を押す。
俺と星川の間に出来た僅かな隙間に、横から壁が差し込まれる。
「なにこれ……? あっくん! あっくん! 返事してよ! 」
星川が壁をどんどんと叩く音が聞こえる。
星川に返事は返さない。いや、返せない。既に、大量の手によって俺の口は塞がれ、身体は拘束されていたから。
「アカリン様を逃がし、自ら我らの裁きを受ける心意気だけは評価しよう」
「ふひっ。で、でも……裁きは受けてもらう」
「我らが女神に触れ、我らの嫉妬心を煽った罪は重いぞ」
拘束されている俺の周りに、黒ずくめの男たちが一人また一人と姿を現す。
案の定、俺が感じていた殺気を出していた奴らはアカリン教徒だったらしい。
「「「かかれえええ!!」」」
「あっくうううううん!!!」
「んー!!」
じゃあな、星川。イリス様のこと、頼んだぞ。
無実と主張しても無理。というか、無実を主張するための口も塞がれている。結果、俺はアカリン教徒たちによる三十分間こちょこちょ耐久の刑を受けることになった。
****************
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