第34話 日が沈み、夜が来る
***<side 下っ端>***
ゲロリンが倒された後、ゲロリンに逆らった俺たちは組織のアジトに戻ってきていた。
このまま逃げることも出来た。
だが、全てを思いだした以上、俺たちはアークと敵対する可能性の高いあの男を見逃すわけにはいかないという結論に至った。
「戻って来たのか」
ガルドスの部屋に入り、ゲロリンが倒されたことを報告する。アークと過ごした時を思い出したことを悟られてはならない。
あくまで、機械的に無感情を意識する。
「そうか。ゲロリンは倒されて、奪った愛も回収できず……か。まあ、いい。一人部隊長が倒された。これで、一人一人の部隊長が持つ権力はまた大きくなる。報告ご苦労。一先ず、ゲロリンの下にいた部下は俺の下へ帰ってくるように伝えておけ。新たな任務については、また後日伝える」
「「「アイ」」」
ガルドスの部屋を後にする。
とりあえず、バレなかったようだ。ガルドスは何かを企んでいる。その何かが、何かは分からないが、確実にアークにとって良くないことなのは間違いない。
アークには恩がある。
この恩を無視しても別にいいだろう。だが、それをすることは結局、昔の自分に戻ってしまうことになる。
人の愛情を何もかも無視して、誰かに何かを与えることも、与えられることも出来ない人生。
その人生を変えたいと思ったんだ。だから、俺は逃げない。アークというバカに恩を返す。
「アイ」
「「「アイ」」」
周りの奴に、このままこの組織に残るか確認する。全員が残るという意志を決めていた。
やるべきことはたくさんある。他にもガルドスに記憶を奪われたやつの記憶を取り戻すこととか、ガルドスのやろうとしていることの妨害とか。
だが、どれも一筋縄ではいかない難しいことだ。
それでも、やると決めた。
これが、俺の、俺たちの新しい人生の始まりだ。
あのバカに影響された
***<side end>***
***<side ガルドス>***
ゲロリンが倒されたらしい。
それはいい。予想の範疇だ。問題は戦闘員たちの報告に会ったもう一つのこと。
奪った愛の回収は出来なかった。
これでは、何の意味もない。ラブリーエンジェルたちの弱体化を図ろうとしたが、その作戦は失敗。こちらは、ただただ戦力を削っただけとなった。
だが、悪いことばかりというわけではない。
「失礼します」
「……ガルドスか」
暗い部屋の中に椅子が一つ。その椅子に座る男こそが、俺たちのボスにして、俺たちに力を与えている男だ。
「ゲロリンは、倒されたみたいだな」
「はい。ですので、以前からお願いしていた例の件を正式に受理していただきたいのですが……」
ボスの表情は仮面に覆われていて、分からない。だが、悩んでいるということは伝わってきた。
「あの女は、危険だ。我でも扱いきれぬ」
「その点に関してはご安心を。私に任せていただければ、あの女をある程度制御してみせます。それよりも、戦力が減っていることの方が問題。多少のリスクは目を瞑るべきかと」
ボスは暫く考え込んだ後、「好きにしろ」と呟いた。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を呟き、部屋を出る。
相変わらず、掴みどころの無い男だ。だが、とてつもない力と憎悪をその身に宿している。
かつて、一度だけ抗ったことがある。だが、たった数秒。あの男の本気の殺気を向けられただけで俺は動けなくなった。
「また、憎悪が増していたな……」
普段は抑えているようだが、俺には分かる。あの男の憎悪は日に日に増している。
ボスからすれば愛が広がることは不愉快なのだろうが、本人からすれば悪いことではないのだろう。
自分が抱く愛への憎悪がより強大なものに変わっていくのだから。
ボスをこれ以上、強くしないためにもラブリーエンジェル側の戦力を全力でそぎ落とす必要がある。
組織のアジトにある地下室。その独房の扉を開く。
「……あら、どうしたの? もしかして、私を本当にここから出してくれるのかしら?」
中にいるのは、和服を着た一人の女。両手両足に鎖を付けられているにも関わらず、その美貌は劣ることを知らず、その表情にも余裕の笑みが浮かんでいる。
「そうだ。お前を出してやる。だが、俺の指示に従え」
「ふふ。私を束縛しようってこと? その思いは嬉しいけど、嫌よ。私はどっちかというと束縛したい方なの」
「そうか。なら、このままここにいるがいい。折角、お前が気に入っていた男に会わせてやろうと思ったのにな」
「……待ちなさい」
背を向け、扉に手をかけたところで、背中に声が掛かる。
「会わせてやろうって、どんな風の吹き回しかしら? あなたが私をここに閉じ込めた理由は、彼と私を会わせないようにするためでしょう?」
「事情が変わったんだ。お前の力が必要になった」
さて、どうでるか?
「一応、条件を教えてもらおうかしら?」
食いついて来たな。
「お前に求めることは一つ。何らかの手段で、現在は善道悪津を名乗っているアークと白銀イリスの仲を引き裂け。そういうの、好きだろ?」
「ええ。大好物。そうね。その程度の縛りなら受けてあげる」
女と顔を合わせ、互いに笑う。
そして、俺は女の身体を拘束している鎖を壊して、解放した。
「なら、任せたぞタマモ」
「ええ。楽しみになって来たわね」
妖艶な笑みを浮かべて笑うタマモ。
見た目だけは良い。その中身がとんでもないせいで、ボスでさえ手を焼いた女だ。
だが、男への執着心と男を誘惑するという二点においては右に出る者はいない。
この女を送り込めば、アークが生み出したイリス教とかいうふざけた宗教も壊滅するだろう。
くくく……。さて、アーク。俺は、ジョーカーをきるぞ。
お前はどうする?
***<side end>***
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