第16話 指先で送る君へのメッセージ
星川を家に送った後、六畳一間の部屋の中で俺はスマホと睨めっこしていた。
時刻は夜の十時。スマホの画面に映っているのは、白銀イリスという名前。
既に、星川が招待してくれたグループには所属済みだ。グループ内での発言も済ませている。
ちなみに、その発言に先ほど愛乃さん、星川、イリス様が反応してくれた。
つまり、今イリス様は起きているのだ。
ここまで来れば、俺がスマホと睨めっこしている理由に気付いた人もいるのではないだろうか。
そう、俺は今、イリス様に個人的にメッセージを送るかで迷っているのだ。
少人数の同じグループに所属していることと、同じクラスに通う生徒であるという点から考えれば、メッセージを送ることは何の問題も無いことのように思える。
だが、ここでメッセージを送れば、俺がイリス様を少なからず気にしているということが嫌でもイリス様に伝わってしまう。それがダメかと聞かれれば、その答えはダメだということになる。
何故ならば、今の俺は本当の俺では無いからだ。俺が悪道としてイリス様にアプローチを仕掛けるのは万々歳だ。しかし、今の俺は善道という得体の知れない一般人。可能性は限りなく0に近いが、イリス様が善道という偽物の俺を好きになる可能性も否定できない。
故に、俺は動くべきではない。
今は、我慢することが賢い選択。
だが!!
それ以上に、俺はイリス様とメル友になりたい!!
夜中にメッセージを送って、離れていても繋がっていることを実感したい!
わざと、返信を遅く返してみたり、中々返信が返ってこないことに悶々としたり、返ってくる返信に一喜一憂したりと、そんな甘酸っぱい恋の駆け引きをしてみたい!!
いや、でも俺の中の理性はやはり、我慢すべきだと言う。しかし、それ以上に本能はメッセージを送るべきだと言う。
ピロン!
理性と本能の間に揺れ動く俺の下に、一通のメッセージが届く。
アカリ☆:これからよろしく!
得体の知れない星のキャラクターのスタンプと供に送られてきたメッセージは、星川からのものだった。
その星川のメッセージを見て、閃いた。
善道悪津:ありがとう。希望が見えた。
星川に素早くメッセージを送り、俺はトーク画面を開く。そして、素早くメッセージを打ち込み、送信!
善道悪津:善道です。星川にお願いされて、お手伝いすることになりました。これからよろしく。
ドキドキする胸を押さえながら、待つこと数分。返事が返ってくる。
花音:同級生なんだし、もっと軽い感じでいいよ~。こっちこそよろしくね。
イエス!! 完璧だ。やはり、あいさつ程度なら送っても何の問題もない!
更に、愛乃さんに挨拶のメッセージを送ったことにより、イリス様にメッセージを送っても違和感がない。
そう、これで俺がイリス様だけを特別意識しているわけではないということを暗に伝えることが出来る!
ウキウキと心躍らせながら、イリス様とのトーク画面を開く。イリス様のプロフィール画像は猫の画像だった。
よ、よし……。先ずは、メッセージを送らないとな。えっと、さっき愛乃さんに送ったものと同じでいいか?
『善道です。星川にお願いされて、お手伝いすることになりました。これからよろしく』
冷たくないか? 何か、メッセージから嫌々やっている感が出ている気がする。それに、固い。
愛乃さんにも、もっと軽くていいと指摘された。こんなメッセージではイリス様からの印象が悪くなってしまう!
『あっくんこと、善道悪津デース! これからシクヨロ? 的な? とりま、三人をがっつりばっちりサポートしていくんで、よろぴく!! 気軽にあっくんって呼んでネ♡』
頭が悪い!!
テンションが高すぎるし、初対面の相手に送るような内容じゃねえ! 寧ろ、イリス様の性格的にこっちの方が嫌われる。
もっと真面目にしつつ、遊び心を混ぜて……。
『我が名はアーク。偉大なる星の輝きに導かれ、
方向性が違う!!
大真面目だし、遊び心もあるけど! 年頃の女子に送るメッセージじゃない!
あと、さらっと自分の正体バラしてるし、何か意味深だわ!!
そうこうしているうちに時は流れ、いよいよ日にちが変わろうとしていた。
ま、まずい……。このままじゃ、イリス様が寝てしまう。でも、適当なメッセージは送れない……。
やむを得ない。今日中に送るのは諦めよう。代わりに、しっかりと時間をかけて、明日の朝イリス様がメッセージを見た時にニッコリとなるようなメッセージを送るんだ。
そして、俺の長い長いメッセージ作成が幕を開けた。
『俺の名前は善道悪津! 高校二年生! ある日、転入した学校で出会った少女、星川明里から美少女三人組の手伝いをして欲しいって言われちまった! 手伝いを了承したのはいいけど、三人とも可愛すぎて惚れちまいそうだ! やれやれ、これからの学校生活が楽しみだぜ! 次回『ドキドキ? メッセージ交換!』 返信を返してくれよな!」
次回予告か! 没!!
やっぱり、こういうのは好きなものの話から入った方がいい。
『善道悪津です。あなたの名前は白銀イリスですね? 住まいはこの街ですか? 好きな動物は猫ですよね? 知ってます。好きな食べ物は、甘いもの。違いませんよね? 好きな色は青ですよね。 違いますか? でも、まだまだ知らないこともたくさんあります。もっと、もっともっともっともっともっと知りたい。君の全てを、余すことなく全部。教えてくれませんか?』
狂気!! 没!
そもそもいきなり長文は良くない。もっと、短く、必要なことだけシンプルに……。
『善道悪津。男。よろしく』
シンプルすぎ! 没!!
やっぱり、あれだ。オシャレに、俺の伝えたいことを書き記そう。
『君は、白銀に輝く月のよう。夜空の上で輝く君を、ただ僕は見つめるだけ。でも、約束する。きっといつか君の下に会いに行くと。距離を飛び越え、この思いを君に伝えに行くと。だから、待っていてくれ。マイスウィートハニー』
うーん。悪くない。寧ろ、結構ありだろ。こんな胸がときめくメッセージ送られて、恋に落ちない女性がいるのか?
いやいや、待て。善道としての俺がイリス様を恋に落としてもダメなんだ!
あ、危ねえ。あともう少しで、イリス様と善道とのラブストーリーが始まるところだった。
没! でも、下書きは残しとこ。
あーでもない、こーでもないと悩みながらメッセージを考えること六時間。既に太陽は上っていた。
「……で、できた!」
何とか、イリス様に送るメッセージが完成した。
それが、これだ。
『善道悪津です! 名前に悪ってついてるけど、悪い奴じゃありません。本当です。信じてください。白銀さんは名前の通り、銀髪が綺麗ですね。あ、俺は別に白銀さんのことを恋愛対象としては見ていないので、安心してください! とにかく、これからよろしくお願いします!!』
眠い目をこすりながら、送信する。
よし……。これで、満足だ……。
そして、俺は目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます