第一章 学園生活と学園祭!

第10話 ドキドキワクワクの転入初日!

 俺の名前は善道悪津よしみち あくつ!!


 今日から私立矢場沢やばさわ学園に通う高校二年生! え? 今日から通うなら高校一年生じゃないのかって? ノンノンノン。その考え。ちょっとばかし視野が狭いんじゃないの~。


 そう! 勘の良い人ならもう気付くだろう! 俺は転校生なのだ!!


 そして今は学園の敷地内にいる! 時刻は既に八時三十分。朝礼開始時刻は何と八時四十分! それまでに職員室に来いと言われていたが……職員室の場所が分かりませーん!!


 くそが!!


 思わず持っていた鞄を地面に叩きつける。


 誰だよ善道悪津って。何だよノンノンノンって。ウザすぎるわ。

 あと、何だよこの学校。敷地広すぎだろ。敷地内で車走ってたぞ。

 イリス様に会うために少し早めの朝七時から登校していたが、イリス様は見つからないし、職員室の場所は分からないし……最悪の気分だよ!

 気付けば時刻は八時三十五分。もう間に合わないだろう。今日一日は職員室を探して終わりにしようかな~。


 俺がそんなこと考えて空を眺めていると、俺の目の前に黄色の髪の女子が現れた。


「およ? もしや君は噂の転校生?」


「え……。ああ、はい。そうです」


 俺の返事を聞くと、その子は目を輝かせて俺の手を取った。


「いやー! 見つかって良かったよー! 先生に探してこいって言われたときは見つかるわけないじゃん! って思ったけど案外見つかるもんだね~」


 だ、誰だこの女は。どこか見覚えのある顔の様な気がしなくもないが、こんな元気いっぱいといった雰囲気の可愛い子を俺は知らない。

 まあ、この子を遥かに上回る可愛さと美しさを兼ね備えた女性は知っているんだけどね。


「あ、えっと……失礼ですけど、誰でしょう?」


 俺が初対面の相手ということもあり、緊張しながらそう聞くと、女性は掴んでいた俺の手を離した。


「あ! 自己紹介がまだだったね! 私の名前は星川明里! 世界中の人を笑顔にする未来のアイドルだよ! よろしく☆」


 その子は最後に可愛らしくウインクをした。


「萌ええええええ!!」


「イェーイ!!」


「L・O・V・E! あ・か・り!! L・O・V・E! あ・か・り!!」


「ありがとうー!!」


 は!! な、何だこれは。目の前の女子のウインクを見た瞬間に、ここが彼女のコンサートで俺は彼女を応援してきたファンの様に思ってしまった!


 お、恐ろしい。これが最近話題の自らの領域を展開して、相手をそこに引きずり込むというやつか!? ま、まさかこの女子はそれが可能なレベル、それこそイリス様に匹敵するほどの可愛さを持っているというのか!?


「くっ……! 中々やるな星川さん」


「明里でいいよ! さっきみたいに明里って呼んで欲しいな!」


「あk――」


 はっ!!


「いや、まだ知り合ったばかりだから。今は星川と呼ばせてもらうよ」


 危ない危ない。またもや目の前の女子の可愛さにやられるところだった。


「むむむ……。強敵だね。でも、絶対に明里って呼ばせて見せるから!」


 あれ? この子、もしかして俺のこと好きなのか? いや、これはそうだろ。好きじゃない男にウインクとかしないだろ。名前で呼び捨てにさせてみせるとか言わないだろ!!


「ふっ。精々頑張るといいよ」


 髪をファサッと一払い。やれやれ、名もなき美少女を恋に落としてしまうとは俺も罪な男だ。


「それ、やめた方がいいと思うよ」


 だが、俺に惚れているはずの少女はジト目を俺に向けていた。


「すいませんでした」


 勘違い男子ほど恥ずかしいものはない。俺は直ぐに土下座した。


「……あっはははは!! 土下座早すぎでしょ。も~。転校生君めっちゃノリいいし、凄い面白いじゃん! これからよろしくね! ……えっとごめん、名前何だったっけ?」


「俺は善道悪津だ。こちらこそ、これからよろしく」


「じゃあ、あっくんだね! よろしく! あっくん!」


 星川がそう言って笑顔を向けてきた。その笑顔は夜空に輝く星のように輝いていた。

 そして、互いの名前を知ったところで丁度良くチャイムが鳴る。


「あ! いけない! あっくんを職員室に連れてかなきゃだった! ほら、職員室に案内するから私に着いてきて!!」


「お、おう」


 走る星川に続いて俺も走る。そしてなんとか職員室にたどり着くことが出来た俺は、担任の先生に初日からの遅刻を呆れられながら、俺が編入する予定のクラスに一緒に向かうことになった。


 ちなみに職員室は地下一階にあった。誰が初めてで職員室まで辿り着けるんだよ……。いや、案内見なかった俺が悪いけど。


「さて、一限は私の授業だからそのまま善道の自己紹介に時間を使おうと思う。私が入れって言ったら教室に入って来いよ」


「はい」


 俺の返事を聞くと、担任の先生は教室に入っていった。


 当然だが、星川は俺を職員室に届けたところで先に教室に戻っている。


 それにしても自己紹介か。なんだかんだで俺が悪の組織に入ったのは高校一年生の八月頃だから、自己紹介というか学校に通うのはおよそ一年ぶりということになる。


「今日は転校生を紹介するぞー」


ワイワイ


 イリス様との学校生活楽しみ! イチャイチャチュッチュするぞ! と言いたいところだが、学校内では俺はイリス様が好きだという行動をあまりできない。

 いや、出来ないということは無いのだが、悪の組織の頃ほどの露骨なアタックをしてしまうと、イリス様に正体がばれる危険性があるため、露骨な好きアピールは出来ない。


「いいぞ。入ってこい」


ガヤガヤ


 まあ、それでも学校生活を送れるだけ十分だ。そういえばイリス様は高校に通ったことがあるのだろうか? いや、もしかすると中学にも行っていないかもしれない。


「おーい。もういいぞ。入ってこーい」


ワイワイガヤガヤ


 ならば、イリス様にとってこの高校生活というのはとても楽しみにしているものではなかろうか?

 それならば、俺がここですることは決まりだ。それは、イリス様が楽しい学校生活を過ごせるように全力でサポートす――


「早く入って来んかい!!!」


「は、はい!!」


 俺の目の前にあるドアが勢いよく開き、担任に怒鳴られてしまった。

 もう呼ばれていたのか。イリス様に夢中で気が付かなかった。


 先生が開けたドアから教室に入る。ざっと見回した感じクラスメイトは全員で三十人くらいのようだ。

 そして、俺は見つけてしまった。クラスの端の席でぼんやりと窓の外を見つめる女神の姿を!!


 ああ、制服姿のイリス様。超可愛い……。


「ほら、自己紹介しろ」


 先生に言われ、改めてクラスメイトに目を向ける。クラスメイトの皆は興味深そうにこちらを見るもの、どうでもよさそうな顔を浮かべているものなど、多種多様だった。

 そんな中、星川は俺にキラキラと何かを期待するような目を向けていた。


 星川が俺に何を期待しているのかは知らないが、イリス様の楽しい学校生活のためには面白いクラスメイトの存在は必須。ここはその面白い枠に俺が入るためにもなんとか面白い、もしくはインパクトのある自己紹介をしたいところだ。

 そして、自己紹介と言えば有名な某アニメのセリフがある。パクリは良くないが、インパクトを残すという点であれ以上の自己紹介はそうそうないはずだ。


 刮目せよ! 俺の! 最強の自己紹介を!!


「ちゃだ――」


「「「……」」」


 落ち着け。一回噛んでも大丈夫だ。深呼吸して、もう一回だ。


「ちゃぢゃ――」


「「「……」」」


「善道悪津です……」


「「「……」」」


「……以上です」


 そこから先の記憶はほとんど覚えていない。ただ、周りのクラスメイトから生暖かい視線を向けられる中で、星川が一人お腹を抱えて笑いを押し殺していたのが印象的だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る