第十話
第十話 月月火水木金金
阪神タイガースは入団会見から暫くして秋気キャンプに入った、秋のキャンプは年末まで続き元旦が終われば又再開となった。
拙者は大坂の陣で共に戦ったお歴々に土佐藩の志士達そして拙者と主従だけでなく友それに義兄弟として生死を誓い合った者達に話した。
「これは戦である」
「だからじゃのう」
「鍛錬に励むでござる」
後藤殿の問いにも答えた。
「ここは」
「鍛錬に鍛錬を重ねて」
「そして強くなるでござる」
「わかった」
後藤殿の返事は強いものであった、大柄な身体は足腰は馬の如きで上半身の筋肉もかなりのものだ。武器の重い剛速球と落差の激しいそれこそ二階から落ちる様なカーブとフォークは実に頼もしい。先発の一角にと考えている。
「それなら真田殿の言われる通りに」
「鍛錬をしてくれるでござるな」
「拙者は鍛錬が好きである」
鉄扇を出して笑って言われた、その鉄扇には強い言葉が書かれている。このことは楽天のスラッガーの一人芹沢鴨殿と同じである。
「心地よく汗をかいてその後でたらふく飯を喰らい」
「風呂にもですな」
「入る、それが実にいい」
豪快に口を開けて笑って言われる、この豪放磊落さが実に頼もしい。大坂の陣で拙者は後藤殿を実に頼もしく思った。あの時のことも思い出しつい笑顔になった。その拙者に後藤殿はさらに言われた。
「だからのう」
「キャンプはでござるな」
「望むところ、シーズンオフは鍛錬に励もうぞ」
「来シーズンの為に」
「そうしようぞ」
「殿、是非です」
三好伊佐入道が言ってきた、豪傑気質な兄の清海と違い冷静沈着で思慮深い。だが大柄でその力は兄に決して劣っていない。兄と共にキャッチャーとなっている。
「この秋と冬はです」
「キャンプでだな」
「練習を積み強くなりましょうぞ」
「一に練習、二に練習であり」
拙者は伊佐に答えた。
「そして身体を労わり食もよいものをたらふく食する」
「それこそがですな」
「真に強くなる道、だからな」
それでというのだ。
「オープン戦までじゃ」
「キャンプですな」
「それをする、場所は日向である」
もうその地も決めてある。
「あの地は秋や冬でもぬくいからのう」
「あの地で、ですな」
「汗をかこうぞ」
「さすればです」
根津甚八が言ってきた、清海や伊佐に次ぐ巨漢であり力はかなりある。守備位置はファーストでありその安定した守備だけでなくチーム一のバットコントロールと勝負強さからこの者を四番にと考えている。
「これより」
「日向に行くぞ」
「わかり申した」
「汗は嘘を吐かぬ」
拙者は甚八に述べた。
「だからこそ練習あるのみだ」
「殿、基本十二月や一月は自主トレですな」
こう言ってきたのは筧十蔵であった、今も尚聡明そうな顔立ちをしている。背は普通位であるがやはり引き締まった身体をしている。十勇士の軍師と言っていい者であり拙者にも助言をしてくれた。様々な術に秀でていたが今はレフトである。肩はやや上といったところであるが守備も打撃もいいので五番レフトを考えている。
「しかしそこをあえて皆でキャンプに入る」
「左様、チーム一丸となり連中に励み野球を学ぶ」
拙者は十藏に答えた。
「わかるな」
「そのことは」
「そういうことである、自主トレは一人でする」
だからこその自主トレである、ここにいる誰もが自主トレでもかなりの成果を出してくれる。だが拙者はあえてだったのだ。
「しかしチームが一つになり野球を練習してな」
「野球を学び」
「何時どうしたプレイを行うか」
走塁にベースカバー、そうした細かい部分まで色々とだ。拙者はあえて長いキャンプを行ってそれを皆の頭に入れたいのだ。
だからだ、拙者は今十藏に語った。
「それが大事であるからな」
「それ故にですな」
「あえて今からキャンプを行う」
今は十一月だ、ここから二月が終わるまでだ。
「野球を練習し学んでな」
「阪神を史上最強のチームにしますな」
由利鎌ノ介が言ってきた、鋭利な顔立ちでありざんばら髪であり。鋭い目であるがその光は優しい。かつてはその名の通り鎖鎌の使い手であったが今はサードを守っている。この者も頼りになる。事実拙者は鎌ノ介はあの藤村殿や掛布殿に負けぬまでの名サードになると確信している。
「そうしますな」
「左様、そして食事もな」
「身体によいものをバランスよく多く食しますな」
「白米や肉を食するなとは言わぬ」
こんなことは一切言うつもりはない。そして炭酸飲料を飲むなだのガムを噛むなだのもやはり言うつもりはない。
だがそうしたものはあくまでおやつである、主食はあくまで身体によいものをバランスよく多くだ。肉も魚も野菜も果物も質のいいものをたらふく食ってもらう。野球選手の身体を作る為のものをだ。間違っても茹で卵の白身だけのものだのササミだのをメインに食する格闘家の食事にはしない。あくまで野球選手の為のものを出すつもりだ。
「美味な身体によいものを朝昼晩腹一杯食してな」
「その分練習ですな」
「そうせよ、そしてじゃ」
拙者はさらに言った。
「トレーナーの方にも多く来てもらうし入浴もじゃ」
「じっくりとですな」
丸い目に長方形の顔、黒い短い直毛でやや背が高く手足の長い者が言ってきた。十勇士のまとめ役である海野六郎だ。泳ぎはこの者が十勇士で一番であった。今はライトを守っているので開幕から頑張ってもらうつもりだ。
「しますな」
「そうして身体も労わる」
「そうしますな」
「そして練習前と後には準備体操と整理体操を欠かさず行う」
怪我をしない為だ、運動の前には身体をほぐしてかつ温めておく。故金田正一氏も高見山関もしておられたことだ。
「怪我人は何があっても出さぬ」
「怪我をしないことが第一ですな」
「うむ、怪我が最も怖い」
これで戦力を落としてきたスポーツチームがどれだけあるか、そのことを考えると拙者は猛練習をしてもそれでもその後の身体の労わりが欠かせないと断言する、これは格闘家でも同じだ。まずは怪我をしないことだ。このことには食事も関係があることは言うまでもない、確かな食事をすれば怪我にも強くなるしまた怪我をしても回復が早い。
だからだ、拙者は怪我についても六郎に話した、六郎は二人いるのでこの海野六郎を六郎として望月六郎を六朗をしようかと考えている。
「だからな」
「トレーナーの方に入浴に」
「そして準備体操、整理体操をしてストレッチもな」
身体を徹底的にほぐすことをだ。
「していくぞ」
「さすれば」
「そうしてキャンプをしていくとしよう」
こう言ってだった。
拙者はナインと共にキャンプに入った、そして初日から大いに汗をかいた。
第十話 完
2021・5・12
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます