第六話
第六話 思わぬ再会
拙者の阪神タイガース入団は決まった、入団会見はまだであるが拙者が契約したことはすぐにマスコミから日本中に知れ渡った。
背番号十一を受け継ぐ、それも村山殿の英霊ご自身から直々に。このことは日本中を駆け巡った。何でも坂本殿が背番号十を受け継いだ時以来のことらしい。
拙者は日々阪神を日本一にするそれもこの偉大な背番号を背負ったうえで為すということに重圧を感じていた。だが坂本殿はその拙者に携帯で笑顔で言われた。笑顔であられるのは声でわかった。
「おまんにぜよ」
「ドラフトの他のお歴々にでござるな」
「そしてわしはさらに手を打っちょると言うたな」
「それで、ござるか」
「おまんは柱じゃ、しかし他の人材も揃えちょる」
後藤殿達以外にもというのだ。
「だから安心するぜよ」
「重圧を感じる必要はないでござるか」
「そうぜよ、今度入団前の顔合わせで甲子園に来るが」
「その時にでござるか」
「わかるぜよ、その時を楽しみにするぜよ」
「わかり申した」
拙者は坂本殿にお答えした、そのうえで甲子園に行く日を待つことにした。待つ間は長く感じるものだがその時が来ればそれはもう一瞬のことだったと思うのはこの時もそして野球でも変わらぬことであろうか。
拙者は長野から甲子園に入った、この時入寮の手続きもした。そのうえで阪神甲子園球場かつてこの球場で何度も投げそして優勝を果たした時のことがこの間のことの様にも遥かな昔のことであった様にも思えた。
その甲子園球場のグランドに来ると拙者に対して呼ぶ声がした。
「殿!お久しゅうございます!」
「ご活躍は日々聞いておりました!」
「またこうしてお会い出来るとは感無量!」
「しかも共に戦えるなぞ我等は果報者でござる!」
「お主達は!」
拙者は声のした方を見た、そこには。
前世で文字通り苦楽を共にしてきた者達がいた、拙者は元服してから常にこの者達がいたからこそ戦えて来た、生きていくことが出来た。
数多くの戦で共に戦い高野山での隠遁の日々でも拙者を決して見捨てず共にいてくれた。まさに生まれる時は違えど死ぬ場所と時は同じだと誓い合った仲であった。拙者とこの者達はただの主従ではなく義兄弟であり友であった。
その者達が全て拙者の前にいた、その者達の名は。
猿飛佐助、霧隠才蔵、三好清海入道、三好伊佐入道、海野六郎、望月六郎、筧十蔵、根津甚八、穴山小助、由利鎌ノ介、世に真田十勇士と言われた拙者に仕える一騎当千の忍達であった。その「者達が今拙者の前に揃っていた。
拙者は思わず涙を流した、十勇士達もだった。そして互いに強く抱き合った後で抱き合ったままで皆に問うた。十一人で抱き合う拙者達は野球ではなく蹴球即ちサッカーをする様であっただろう。
「お主達も生まれ変わってきたのだな」
「はい、現世に」
「皆この世に生まれ変わってきました」
「そして野球をしておりました」
「わしが十人全員スカウトして阪神に入れたぜよ」
ここで坂本殿が出て来て言われた、今は阪神のホームでのユニフォーム姿だ。背番号十が神々しい。
「そうしたぜよ」
「坂本殿がですか」
「そうぜよ」
拙者に笑顔で答えて下さった。
「それぞれ野手として抜群の資質を持っちょるからのう、おまんと一緒でずっと目をつけとったきに」
「では最初からでござるか」
拙者は驚きを隠せなかった、十勇士の者達との再会だけでなく坂本殿の今のお言葉にも驚くしかなかった。その驚きを露わにしたまま坂本殿にお尋ねした。
「拙者を阪神に」
「十勇士達と共にのう」
「そうでござったか」
「おまんと十勇士それに他のモンが全ておって」
そうしてというのだ。
「阪神は最強になったぜよ」
「拙者と十勇士もですか」
「そうぜよ、今年のドラフトと育成枠で最高の人材は全部揃えた」
坂本殿は笑顔のまま言われた。
「あとは一つぜよ」
「一つとは」
「監督ぜよ、実はまだ阪神の監督は決まっちょらん」
衝撃の発言だった、何と阪神の監督は今不在だった。そういえば阪神は監督が誰になるかでその都度話題になる、かつてはお家騒動にもなった非常に困った時代もあった。阪神の伝統の一つにお家騒動があるとかないとか言う人がいるとのことだが嘆かわしい限りである。
「その話も今するぜよ」
「監督は坂本殿ではなかったのでござるか」
佐助が意外といった顔で言ってきた、小柄で丸い顔は愛嬌がある。相変わらずすばしっこいことが予想出来た。
「そうではなかったのでござるか」
「昨日まではのう、昨日までわしは阪神のゼネラルマネージャー兼編成部長兼スカウト部長兼監督だったぜよ」
「昨日まで、でござるか」
清海も言った、剃った頭に豪快な髭、二メートルはある堂々たる巨体だが目は優しい。
「そうでござったか」
「これからはヘッドコーチ兼編成部長兼スカウト部長ぜよ」
そうなられるというのだ。
「ゼネラルマネージャーそして監督はぜよ」
「誰ぜよ」
板垣退助殿が聞かれた、昨年は先発の柱のお一人として活躍されていた。面長で小さな目でありすらりとした長身の御仁だ。幕末ではどうも複雑なお立場だったとのことだが今は阪神の投手jになられている。
「それは」
「それはおまんぜよ」
こう言って拙者を指差された、その瞬間甲子園に大きなどよめきが起こった。選手以外誰もいない筈だが甲子園に宿る幾万もの英霊の方々も驚かれた。
第六話 完
2021・4・26
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