第四話

                第四話  授かった背番号

 坂本殿は拙者の自宅、父上と母上がおられるそこに来られることになった。そこで拙者とご両親をを交えて契約のお話をされるとのことだ。

 坂本殿が来られるその日拙者は会社の寮、野球に専念する為に入っていたそこから自宅に戻りそこで坂本殿をお待ちした。

 だが坂本殿が一体どうして来られるかは知らなかった、聞いていなかった。それで父上と母上は自宅でこう拙者に言われた。

「坂本さんはどうして来られるんだろうな」

「西宮から長野までは遠いわよ」

「交通の便は不便だしな」

「あそこから上田まで随分時間がかかるわ」

「左様でござるな、そういえばどの様にして来られるのでしょうか」

 拙者も父上と母上にお話した。

「電車でもかなりの時間がかかるでござる」

「途中まで新幹線で行けるにしても」

「上田まで直通ではないのよ」

「お車だともっと時間がかかる」

「ここは空港もないし」

「左様でござるな、一体どうして来られるのか」

 拙者も不安いや心配になってきた、その心配をお二方にお話した。

「疲れないでござろうか」

「それが心配だな」

「ここはしっかりとおもてなしをして疲れを癒してもらいましょう」

「では林檎を用意するでござる」

 リンゴは拙者の前世ではなかった、梨はあったが。だがこの林檎は美味なだけでなく非常に身体がいい。それで拙者も毎日の様に食している。長野名産のこの果物に他の色々なものを食しながら拙者は野球をしている。

 肉に魚だけではない、野菜も果物も食している。主食もお米だけでなく麦もだ。パンも食べている。そうして体格を整えていったのも事実だ。背丈はこの世において標準以上より高いという一八〇を優に超えるものになった、ピッチャーそれも拙者の投球フォームであるワインドアップからのオーバースローに相応しい位になった。

 その重要な柱になった林檎だけでなくお茶そして長野のお菓子も用意した、そのうえで坂本殿をお待ちした。拙者も父上も母上も坂本殿は遅くなると思ったが。

 何とお昼前、拙者達がこれまた長野名産である蕎麦を食しようと思っていた時にだった。蕎麦の美味さを楽しもうと思ったが。

 そこでヘリの爆音が聞こえた、それはさながらあの神話の国の十二神が乗り込んでいた黄金のヘリコプター達さながらにだった。

 黒と黄色、まさに虎のカラーリングそのままのヘリコプターしかも陸上自衛隊さんが一説にはあれが欲しいこれが欲しいというかつての帝国陸軍ではお金がなくてしたくても出来なかったことを今の我が国の経済大国であることを活かしてかまあそれでも防衛費が国家予算の中では僅かという戦国乱世に生きていた拙者にしてみればそれでよいのだろうかまあこの世では何でも他に予算が必要であるしそうであるのならよいのかと高校を卒業してから就職して思ったことを思いつつ現代の我が国はこうしたものまで一般企業まで持てるものかと思いながら観た。

 そのヘリは拙者の自宅の玄関の前に降り立ってだった。 

 そこからスーツ姿の坂本殿が出られて玄関のところに父上母上と共に出て来た拙者に言われた。随分と颯爽とした動きだった。

「待たせたぜよ」

「ヘリで来られましたか」

「そうぜよ、おまんだけではないぜよ」

 拙者に白い歯をきらりと光らせて言われた、その歯の輝きが実に奇麗だ。

「他のドラフト、育成指名のモンもぜよ」

「同じでござるか」

「わしは身分が嫌いぜよ」

 坂本殿ははっきりと言われた、このことは拙者も聞いている。

 何でも坂本殿はずっと身分で苦しんでこられたという、土佐藩の上士と郷士のことで。坂本殿は郷士の立場であられたという。


「だからぜよ」

「そうしたことにこだわらず」

「阪神に必要な人材を選んだぜよ」

「左様でござるか」

「そうぜよ」

 その白い歯でのお言葉であった。

「確かにドラフトには順序があるが」

「それに関係なくでござるか」

「阪神に必要なモンを選んだ」

 坂本殿は頼りになる笑顔で拙者に言われた。

「おまんも含めてな、ただおまんは先発の柱に考えちょる」

「先発のですか」

「そうじゃ、エースじゃ。おまんにはそれになってもらう。その話をおまんの家でしたいがいいかのう」

「はい、お願いします」

 拙者は真田殿のお言葉に応えた、そのうえで坂本殿を自宅の敷地内に案内させて頂いた、拙者の家は長野のごく普通の家である、一軒家であるが特に豊かでも貧しくもない。父上も母上も無欲な方々で贅沢や野心といったものには無縁の方々だ。そうした方々だからこそ拙者も心よりお慕いしている。

 坂本殿は自宅の居間で父上母上とも会われた、そして拙者を交えて何故拙者が阪神にとって必要な人物であるかを話して頂いた。

 契約金の話もして頂いたが拙者も父上母上も驚く位の額だった、何でも拙者のこれからの働きを思えば何でもない先行投資とのことだ。

「あまりにも高くないですか?」

「あの、三億とか」

「息子さんは三百億の働きをしてくれるピッチャーぜよ、三億なんて大したことないぜよ」

 坂本殿はその額に驚く両親に明るくまさに破顔大笑して言われた、そして次に背番号のお話であったが。

「そのことはこの方がお話してくれるぜよ」

「はじめまして」

 何ともう一人来られた、その方を見て拙者も両親も流石に我が目を疑った、恐ろしい方が来られた。



第四話   完



                      2021・4・19

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