第三話
第三話 運命の再会
企業野球に入った拙者はこの世界でも活躍することが出来た、チームメイトの方々にもなかよくして頂き和気藹々とした野球を続けられた。
マウンドで投げ続けバッターボックスでも打った、拙者は間違っても相手の方を侮ったりしない。常に相手の方そしてチームに敬意を以て向かった。その姿勢を崩すことなく野球をしていきこちらでも満足のいく成績を残すことが出来た。
そしていよいよ運命の日が近付いてきた、拙者はマスコミの方々にはっきりと答えた。
「阪神以外は考えていません」
「阪神タイガースですか」
「そちらに入られますか」
「そして阪神を日本一に導きたいと考えています」
こう答えた、そのうえで運命の日を待った。その運命の日に。
拙者は会社にセットしてもらった場所でドラフトの実況を見守った、そのセットは高校の時と同じだった。周りの会社の人達は誰もが拙者に笑顔でお話してくれた。
「絶対にドラフト一位指名だよ」
「阪神を逆指名したから阪神も指名してくれるよ」
「来年からは甲子園だよ」
「甲子園で頑張るんだよ」
「はい、その使命を待たせてもらっています」
拙者は周りの人たちに強い声で答えた、そしてだった。
ドラフトを見守った、事実拙者は阪神を逆指名させて頂いていて阪神への入団は決定的だった。そうしてだった。
拙者は阪神の発表を待った、そこには。
「やった!」
「やったぞ!」
「阪神だ!」
「阪神が指名してくれたぞ!」
周りの人達が声をあげてくれた、阪神は拙者を一位指名してくれた。坂本殿は約束を守ってくれた。拙者は阪神の一位指名に拙者自身の名前を観ただけで感無量だった。
思わず涙が出た、だが感無量はそれで終わりではなかった。
何と二位には。
「なっ、後藤殿が!?」
「後藤又兵衛さんか」
「兵庫の企業で投手をしているという」
「あの人も指名したのか」
「阪神やるな」
「ピッチャー二人で一位と二位か」
拙者だけでなく周りの人達も驚いた、しかしその驚きはまだ続いた。
三位に木村長門守殿、四位に長曾我部太郎盛親殿、五位に毛利豊前守殿、六位に明石掃部全澄殿、どの人も投手であられた。
投手というだけではない、どの御仁もかつて拙者で大坂の陣で苦楽を共にした方々ばかりだ。特に後藤殿とは大坂城でどれだけ語り合い共に戦ったか。
その方々も全て阪神が指名した、拙者はこれには驚愕するばかりだった。ドラフト指名は拙者のこと以上にこのことに驚いた程だ。
それ故に携帯に連絡をしてきた坂本殿に思わずお聞きした、お聞きせずにいられなかった。
「あの、ドラフトのことでござるが」
「ははは、おまんは策の一つと言ったぜよ」
携帯の向こうの坂本殿は拙者に笑って答えて下さった。
「そういうことぜよ」
「それでは」
「そうぜよ、おまんを一位指名してぜよ」
そうしてというのだ。
「五人も指名したぜよ」
「そうでありますか」
「おまん等六人に今の投手陣で投手陣は盤石ぜよ」
坂本殿は拙者に笑顔のまま言われた。
「特におまんがエース、わしは先発からストッパーに回るきに」
「坂本殿は今年阪神のエースでござったが」
「そのわしがストッパーに回るぜよ」
拙者に笑って答えられた。
「そして他の先発中継ぎももう考えちょるぜよ」
「そうでござるか」
「阪神史上いや世界の野球の歴史で最高の投手陣が誕生したぜよ」
「そうでござるか。しかし」
ここで拙者は気になったことがあった、それで坂本殿にお聞きした。もうドラフトのことは置いておいた。
「野球は九人でするものでござる、プロならチーム全体でするものでござる」
「おう、野球でピッチャーは大事でもピッチャーだけでは勝てんぜよ」
坂本殿もこう答えて下さった。
「だから阪神はずっと低迷しちょったぜよ」
「阪神は伝統的に投手陣は見事です」
先発もそうだが中継ぎ抑えはいつも充実していると言っていいであろう、阪神が投手陣で困ったことはその長い歴史の中であまりないことであろう。
だがそれでもだ、投手陣はいつも充実していても打線が弱い。ただ打たないだけでなくエラーも多く守備にも問題がありそれでどれだけ敗れてきたか。
阪神のその歴史は拙者も知っている、それで拙者は坂本殿に申し上げた。
「ですが打線は」
「そうじゃのう、しかしそちらもじゃ」
「お考えですか」
「わしはもう手を打っちょる」
野手陣のこともというのだ。
「おまんは安心して阪神に入団するぜよ」
「そうしてよいですか」
「阪神はわしが入ってからも苦渋を舐め続けちょる」
兎角中日が強い、そして広島も。しかも最近ではヤクルトや横浜まで力をつけてきている。阪神も検討しているが苦戦しているのが現実だ。幸い巨人がとてつもなく弱体化しているので最下位はなくなっている。
しかし優勝から遠ざかっているのは事実、それで坂本殿もこう言われた。
「それには盤石の投手陣に加えてぜよ」
「野手陣もですね」
「わしは最強の野手陣も見付けて来た」
拙者に強い声で答えてくれた。
「だからおまんは楽しみに待っちょるぜよ」
「そうしていいですか」
「阪神の入団発表の時わかる」
坂本殿が今言われていることがというのだ。
「その時まで待っちょるぜよ、それで契約の話じゃが」
「はい、そのことは」
「これからするぜよ。凄い人連れて来るから安心するぜよ」
坂本殿は拙者に言われた、そのうえで携帯を切られた。
どうにも凄いことになってきた、拙者が思っていた以上に。拙者はこのことはわかった。だがそれでもだった。
それは阪神だけのことだけでなく拙者自身についてもだった、拙者はそのことをすぐに知ることになった。
第三話 完
2021・4・15
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます