Episode45
ウォードマンさんは一度口につけたカップをテーブルに戻そうとしてもう一口。
視線はこれまでより動きが活発だ。
「さて、本題に入ろうか。わざわざふたりを分けたのには理由がある。ディルに貢献してきた人たちだからこそ、失いたくない思いと信頼を救ってほしい」
ここからはもう丁寧な口調はない。尋問する側とされる側。これを意識させてあげよう。
このギルドの成長のために排除すべきものは容赦なく切り捨てるべきだけど、一新するには時間が足りない。幸いここはふたり組だ。どちらか一方を残すための審査も兼ねて進めていく。
「…………できることはします」
これまでの誰のワンシーンよりも
「もちろんそれ以外ありえない。ウォードマンさんがこれからもここに残ってくれるならね。それじゃあ、さっそくの質問。僕が目指すギルドはカメリア内最高位ギルドの『ドゥーシェ』で、その過程でここと創設から数年の違いしかない『ヴィラ』を越なければならない」
ベネローズがギルド長として就任している前期ギルドランク30位の有望株。
そう考えればこの世代を弱くないと思っているにしては主席が不慮の事故で亡くなり、次席が若くしてBランク冒険者からギルド長に就任。冒険者という点、討伐能力や実績という点においては見劣りしているな。
「そのためには新たな策が必要不可欠だ。その負担は僕が背負うだけでなくて、ウォードマンさんを含めスタッフの方々にも掛かる。それを許容出来ますか?」
これまでの楽な仕事場とは遥かに違ってくることは想像に容易い。スピード感こそ活発な冒険者が増えるまでは変わらないにしても、事務的なことや自主的なアピールが増えていくことで仕事量が増えていく。
相手する対象も冒険者だけではなくなるかもしれない。僕が任せればの話だが。
そういうものを加味して、働く意欲を確かめる。残念だけど士気を下げるような人は要らないから。
そういう点では夫がモチベーターになっているハーバーさんは引き続き続けてくれそうだ。
「私は構いません。むしろ手持ち無沙汰な現状を変えたいと思っていましたから有難い話です」
「それは嬉しいね。なにか既に試してみた案や留めている案はあるのかな?」
「それは……まだありません。でも、必ず力になれると思います」
この職への拘りか、僕を舐めての言葉か。
年下の上司、しかも経験値でいえば僕の方が圧倒的に劣っている。そんな人間がやる気を見せるスタッフを簡単に切れないとでも思っているのだろうか。
突いてやろう。
「付いてきてくれる人は皆、前向きな気持ちを持っているんだ。前提条件に過ぎない。ウォードマンさんは変えたいと思っていたと言ったけれど、それは意気込みだけの話だったんだね」
「たしかにギルド長の言っていることは間違っていません。でも、そういう気持ちをアピールすることも大事ではありますよね!」
おー、勢いが乗ってきた。
嫌味な言い方に怒りが芽生えたのかも。まだまだ執拗に責めれば良い栄養分を与えて育てられる。
被った皮を脱がせるためにもね。
「ああ、不遜な態度を取るような人よりは印象は良くなると思うよ。ただね、5年、10年かけて右肩上がりにしていくつもりじゃないんだ。そもそもディルは5年も無駄な時間を過ごして来たんだから」
「なっ、それってどういうことですか?」
「分からないかな、現状に至るまでの数値の変化を」
ミルが僕の軟禁期間中に集めてくれた資料の一部はここで管理している。
立ち上がりデスクまでそれを取り、彼女の方を向けて置いた。
自分の失態を突かれるものかどうか気になっているだろう彼女は、すぐに目を走らせる。
「これは5年間の達成依頼と受諾依頼の数の比例だ。見てわかる通り、初年度が最高値を叩きだして2年目で落ち着いた後3年間は微減している」
「……」
なにか言い返そうにも目の前に事実を突きつけられている以上、出す言葉がないといったところかな。
問題点をこれから挙げていく。そのなかでメインの依頼について掘っていく機会を設けられる。
ようやく来たチャンス。今日でディエドスタさんかウォードマンさんか、生き残りを決めよう。
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