Episode30
引き続きローラに現状の冒険者制度について話を聞いていこう。
遠慮をしらなそうな性格だから、これまで感じたことをそのまま言葉にしてくれそうな安心感がある。
ただその前に。
「ミルは先に寝ていても構わないよ。今日一日疲れただろう」
必至に欠伸を我慢して口を膨らませている彼女を見ていたらつい言ってあげたくなった。
バレていたと気付いて恥ずかしそうにしているのが可愛い。
「ごめんなさい。邪魔はしないようにと思っていたのだけど」
「ううん、気にしないで。ここだったらメモは自分で取れるから。それに明日に響くと困るのは僕にとってでもあるし、我慢しないで部屋でゆっくり寝てくれ」
「それじゃあ、お言葉に甘えてお先に失礼しますね。ローラさんはご自分が使うお部屋の場所、ちゃんと覚えていますよね?」
「任せてください! ちゃーんとこの頭のなかに入れましたから!」
果たしてそれが容れ物として機能しているのか甚だ怪しいけれど、まだ入り口近くにあるだろうからすぐに引っ張りだせるだろう。
もしもの場合はリビングのソファにでも寝かせておけばいい。
部屋に戻るミルを見送り、ダイニングにローラと二人きり、といってもなにも楽しいことは待っていない。あるとしたら疲れだけ。
とにかく話を再開しようか。
「さて、さっきの続きに戻ろう。モンスターの生息場所を特定して探し出すまでに時間がかかることはわかったけれど、一概にDランク依頼の対象モンスターと言ってもそこに力量の差はあるだろう? しかしポイントは一律だ。そこに不満を抱くことはあった?」
「うーん、人によると思いますよ。私はよくドジしちゃってうまくいかないことが多いけど、戦うのが好きだから全然つらいなんて思わないです。それにお金を稼いで家族の皆が笑顔になれるならってなりますし」
そういう意味では特殊な部類にローラは入るのか。
「あっ、でも、この前依頼のためにアントのことを探していたら、虫系繋がりでスパイダーがいるところを見つけたんですよ。そこに冒険者の人が二人いて、どっちが先に見つけたーとか喧嘩していたかもです」
スパイダーはルーキーランク用の依頼モンスター。今朝、ドームくんが討伐して持ってきていた。習性として巣をつくるから、そこである程度ポイント稼ぎのために張っている冒険者がいるんだろう。
難しくないし、採れる査定物が多い。毎日を生きていったり、実家暮らしの小遣い稼ぎにはもってこいの相手なのかも。
だからこそ、その取り合いが起きてしまうのはいずれ事件を生みかねない。というより、もう既にそういった事例は起きていて表に出ていないだけ、もしくは出るほどの大事件になっていないだけなのかもしれない。
「問題がないわけではないんだね。ありがとう。良いことを知れたよ」
「いえいえ。他にはなにかあります?」
恩を売っているとはいえ、ここまで協力的なのは助かる。
「それじゃあ、ディルに限定したことで話を聞きたいかな。なんせ、僕は今日ギルド長に就任したばっかでこれまでの評価というものを殆ど耳にしたことがないんだ。だから、1年と少なくとも僕よりあそこに通っている君の意見は貴重なんだ」
「それって、私の方が先輩ってことでいいです?」
「はは、面白いことを言うね。いやはや本当に」
すぐに変わった僕の表情を見てすぐにハッとするローラ。学校で一人でいた理由はこういうところも関係しているんじゃないのかなと毒づきたくなる鬱陶しさと軽率な言葉。
「ごめんなさい。調子に乗りました……」
「自覚があるなら今回は許そう。もう一度同じようなことを言ったらすぐに追い出すけどね」
「は、はい」
プレッシャーを与えておけばいいか。
疲れもあって普段ならもうすこし軽くスルー出来たとは思うけれど、制御がきかない。一応自分に誇りを持っている人間だからね。
「とにかくディルのことで冒険者にとって良い点と悪い点、もちろんさっきみたいに聞いた話を加えてくれてもいいから教えてくれないかな」
適当にメモ用紙を用意してペンを持つ。
一人でいるからこそ他人の話が耳に入ってくることもあるはずだ。邪魔になる隣の声がないんだから。
ある意味適任な彼女に期待しよう。
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