Episode22

 陽が顔を隠し始め、早くも本日の業務が終わりを迎える。


「結局あれから来た査定は10人。うち、討伐依頼の報告が5人。酷すぎるな……」


「加えて言えば、ドームさん以外の4人はDランク、Cランクの冒険者で大勢所属しているはずのルーキーが全く来ていないことが残念ですね」


 ミルの言う通りだ。


 誤解による信頼喪失を未然に防ぐためにと、30分しかない休憩中にギルド内の案内という体で問題の2人ではない今日受付で勤務中のニーナ・ハーバーさんに連れてもらっていた。


 その途中、依頼掲示板を見ている間に確認したが、やっぱり低ランクの討伐依頼の数が少なかった。


「毎日のここに来る冒険者数との比較でいえば、あまり間違っていると言い難いかもしれないけれど、そちらが先ではないからね。今日来たドームくんのように自分の得意依頼をこなすことでポイントを稼ごうとするルーキーにはまるで合わないと思うよ」


 一種類だけの依頼を受けるのはいかがなものかと思われるかもしれない。でも、それが結果として国の治安を保つ一つの要素となっているのだから無駄だと非難できないだろう。


「この後、あのお二人とハーバーさんを加えてお話をする時間を設けたのは間違いではなかったですね」


「だね、楽しみだよ。さて、それじゃあ下に行こうか。他の職員を見送って一旦扉のロックを掛けないと」


 引き出しから鍵を取り出し、ポケットに入れる。


 ミルと一緒に査定室から出ていき、そのまま階段を下りていく。


 他のギルドがどうかは視察していないので比較のしようがないとはいえ、誰一人もいないロビーは寂しい。


「お疲れさまです」


 僕らに気付いたハーバーさんが声を掛けてきた。さすがはここの最年長。といっても職員資料によれば29歳なんだけどね。


 それに他二人のうち、ディエドスタさんが先に僕のことを一瞬見たのは気付いている。それでも挨拶を口にしないのは今日の居残りについて、すこし疑いを持っている証拠だろう。自分たちの悪行を見抜かれたのではないかと。


「お疲れさまです」


 もちろん皆僕より年上だ。職位が高くとも敬意は忘れない。頭を軽く下げ、丁寧な対応を。


「もうすこしお時間を取らせてしまいますが、すみません、お付き合い頂くことになってしまって」


「いいえー。私たちもギルド長とミルさんのことをあまり知りませんから、楽しみです」


「ええ、こちらこそ」


 それからは査定報告係の男性職員二人を予定通り見送る。


 よし、それじゃあ扉を閉めよう――


「まっっっっってくださーーーーーーい‼」


 ――なんだ⁉


「危ないっ!」


 咄嗟の反応で扉の可動範囲から出るように避けれた。


 にしても誰だ? こんなギリギリにやってきた挙句人がいることに気付けないで突っ込んできた馬鹿は。


「君! どういうつもりだい?」


 全力疾走でここまできたからなのか、両手をついてへばっている女性を見下ろして問う。


「ご、ごめんなさい、はぁ、でも、さき……に、お水…………うっ」


「おい! そこで倒れるんじゃない! ミル、すぐに飲み物を持ってきて。僕は彼女をそこの椅子に運ぶから」


「は、はい!」


「あ、あの、私たちは」


 突然のことに狼狽えた様子でニーナさんが聞いてきた。


「なにもしなくていいですから、今日の予定は全てキャンセルで帰ってもらって構いません。すみませんが、今はこの子のことで急がなきゃなので、それじゃあ! お疲れさまです!」


 ただの疲れで倒れたなら問題ないが、もしかするとなにか発作を起こした可能性もある。そんななかで素人に手伝われるのは足手まといになってしまう。


 ここは速やかに退勤願おう。


 せっかくの話し合いの機会が一度奪われてしまったのは残念だが。


「それより今はこの子のことだ」


 担ぎ、椅子を横並びにしてその上に横にさせる。


 息はしている。胸もちゃんと呼吸しているし、最悪の事態にならないことを願って落ち着かせよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る