Episode8
悪夢から真実を追求しようとして放り出された。
うなされる僕を心配してくれていたミルを安心させて、僕に隠されている「僕《ルーザー》」の処置について聞き出すために椅子に座るよう勧める。
彼女の表情は冴えないままだ。
僕はベッドに腰を下ろした。
「もし、僕のことでモヤっとしたものがミルの胸のなかにあるのなら、その話をして欲しい」
それを口にして良いものかどうか、迷っているみたいだ。
僕の顔を何度も確認するように見て、自分のなかでなにかを決めたように頷く。
「わかりました。貴方の心情を考慮……いいえ、そんなことを言いたいのではなくて、貴方の未来の妻として味方でありたいから」
昨日も、好きになれるようにという言葉を使っていた。それもこれも本心であるのかどうか、この話の重大さで判断を付けられるだろう。
僕も結局は彼女の協力が無ければ一人で進めることができない。
「ありがとう。それじゃあ、お願いするよ」
「実は私がこの部屋に入ってきたとき、すぐには貴方を起こさなかった」
重たく、ゆったりとしたペースで語られる。
どうやら僕が目を覚ますまでの経緯の話のようだ。
「そのときはまだうなされている様子はなくて、静かに寝息を立てていたの。だから、好きだった貴方の顔を思い出しながら、その頬に手を添えようとしたわ」
「そんなにミルが初めて僕を見たときから老けたかな?」
冗談めかして言ってみる。今は心身ともに疲れていて、たしかに別人のように見えていてもおかしくはないけれど。
ミルは笑みを浮かべることなく首を横に振った。
「今も綺麗なことには変わりませんよ」
「ははっ、ごめん。話を戻してもらって構わないよ」
これはミスだった。茶化すつもりは毛頭ないとしてもミルに申し訳ない。
「それで、貴方に触れた直後だった。母さんと声をあげたのは。恐らく、夢のなかで出てきたのでしょう?」
「当たっているよ。僕はこの宮殿から君と一緒に出たんだ。2年の収監を経てね。そうしたら、道の先に母さんがいたんだ」
「でも、次第に苦しそうに絞り出すような声に変わっていったの。額に汗も滲み始めて見るからに悪夢を見ているのだとわかりました」
それで頭を撫でてなんとか落ち着かせようとしてくれたのか。汗のせいで感触の良いものではなかったはずだろうに。
ただ、まだモヤっとしている本題には行き着いていない。
「そうしてすぐに、僕は生きていると」
来た。これだ。
「何が夢のなかで起きているのか、その言葉でおおよそ想像は出来ています。貴方のお母様と出会い、声を掛けたのでしょう。でも、あちらは貴方を愛する息子だと認識しなかった」
「そうだよ。そんなはずはないのにね」
「何事もなかったら、たしかにそうはならなかった。ただ貴方の脳内でなにかが引っかかっていたから、それらが合わさって夢を作りあげた」
最後に本当に知りたいものが隠された状態で。
「その引っ掛かりを私は解消することができる。貴方が求めているなにかを教えてあげることができる。でも、今そうするのは叔父様への裏切りでもあるから簡単に口にすることは許されない」
それがミルが被害者でもあるということ。隠し通さなければならない秘密を共有させられた苦しみが彼女に生まれている。
今、教えられないというのであれば、恐らく本来は2年後に知らされる予定なわけで、やっぱり僕にとって肯定することのできない事実が存在している。
「ただそうだとしても、貴方を苦しめているのは私で、貴方を愛する家族から引き離したのも私で、貴方を殺してしまったのも私」
母さんの言っていたことは間違っていなかったのか。
たしかに僕は死んだんだ。捕らえられ、国王と顔を合わせたあの部屋で。
「じゃあ、僕は誰なんだ?」
目を合わせ、問う。
国王が下した処置。具体的なことはまだ想像の域を出ないけど、最後に行きつく先が死ということは理解した。
ミルも僕が求める答えを口にしてくれるだろう。
「ヒース・ライオネス。商人の名家である母と代々冒険者の血筋である父を持つ若き有望株です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます