Episode4

 一人でいるせいか部屋の空気は重い。


 感情が錯綜してイライラを助長させる。誰がどう見ても今の僕は不機嫌に映っていると思う。


 僕が選ばれた真実の解明によるミルさんへの怒りと、それでも人質に取られている村の皆を守るため何も出来ない無力な自身への呆れと、そもそもの国王やリリアさんへの憎しみと。


「ダメだ、すこし気分転換したい。でも、この部屋から出ることもダメなんじゃあ」


 ああ、もう最悪だ!


 コンコンコン


 ベッドに拳を叩きつけたと同時にまたノックされる。無視しよう。今は誰とも話したくない。


「入りますよ」


 いやいや、ノックの意味がないじゃないか。


「すみません、リリアさん。またあとでお願いします」


「そういうわけにもいきません。ディード様の愛する姪のミルさんに涙を流させた男の話を聞くまでは」


 なんて言い方なんだ。間違ってはいないけれど、僕が泣かせたわけじゃない。


 多分、いろいろと事情説明がなされていたことを察して、わざとからかうように言っているんだろう。乗ってやるものか。


「それならなにも特別なことはありませんでしたよ。ミルさんが泣いた理由も、僕が今ストレスを感じている理由も」


「短気は人から好かれませんよ。人の上に立つ立場の人間として」


 ストレートなクレームもなんのその、構わずに部屋のなかに入ってきて数分前までミルさんが使っていた椅子に座った。


「あの、なにか用事があるんですか?」


 もう退出を願うのは諦めたほうが早い。


 それならパパっと用件を済ませて帰ってもらおう。


「ですから、ルーザーくんから話を聞こうかと」


「そうして得た情報を新たな人質にするんですか?」


 リリアさんは小さなため息をつく。


「そんな機嫌の悪い顔でいてもなにも好転しませんよ。これ以上の人質を取ることはありませんし、君にとってご両親より大切な人などいないでしょう」


 よくも平気でそんなことを口に出せるな。


 身体の自由はもうそれなりに利くようになっているから、手を出そうと思えば不可能じゃない。


「ふふっ、その右手で私を殴りたいですか? 私の血を見たいですか? それとも力任せに犯したいとか?」


「……別に」


「まあ、そんなことできないものね。する勇気なんて話以前の問題ですし。それより、早く本題に移りましょう。君の今後の話を」


 この人の相手をするには僕はまだ幼稚みたいだ。その言葉ひとつひとつに見事につられて感情を動かされてしまう。


 大人しく話をさせておいた方がいいのかも。これからの話は実際聞いておきたいことでもあるから。


「ディード様が君に求めている最終目標はライオネス家の一員になること。形式としてはミルさんとの結婚の末に王室に入る形にはなりますが、もちろん名声のない君が急に現れることに違和感を持たれる国民は多いでしょう」


「僕自身も不釣り合いだと思っていますよ。だから、そこになにか策があるのだろうとも」


「その通り。まずは名声の件を。この国に限らず世界5ヶ国には数多くの冒険者を管理するギルドがあります。依頼から査定、報酬の受け渡しなどの基本的な仕事ではなく、君にしてもらうのはその経営です」


 は? そういった知識を殆ど学んでこなかった僕が?


 もうすこし適性のあるものを任されると思っていた分、驚きが表情にでてしまう。


「でも、それでどうやって名声を? 冒険者であればランクという……ああ、そういえば」


「思い出しましたか? ギルドにもランク付けのようなものがなされているんです。3ヶ月ごとに期間中のランク別での依頼達成数や所属冒険者のランク分布、成長度合いなど配点は様々で、その合計点によって順位を付けられます」


 それを稼いで担当ギルドの順位をあげろってことか。ただ、やっぱり僕にはその知識があまりにも欠けている。


「それはわかりましたけど、すぐになんて……」


「ああ、それなら安心してください」


「もしかして、アドバイザーを用意してもらえるとか?」


 もしくはミルさんが実は博識者とか?


「いえ、君がギルド長になって経営を始めるのは2年後の話ですから」


「はい? ……すみません、ちょっとよく聞こえなくて」


「ですから、2年後です。今日から2年間はこの部屋でギルド経営の勉強をしてもらいます。もちろんそれ以外の理由も多少なりはありますけど」


 平然と2年の軟禁を告げられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る