Chapter1

Episode1

 …………うっ、また頭痛が。


 意識がまだふわっとしている。余程強いものを使われたのか。

 力がうまく入らないな。瞼も半ばまでしか上がらない。


 また違う部屋、なのかな? 天井の景色がまるで違う。施設のような白い天井から蝶の模様が描かれた煌びやかなものになっている。


「どこなんだ」


 もう拘束はされていないみたいだ。僕が叫んで助けを呼ぶ可能性や逃げる可能性を考慮していないのか。もしくはこの部屋の外に兵でも置いて監視しているか。


 天井だけじゃなくて内装全体が豪華なところを見ると、国王の私有地か住処である宮殿だろうから後者の可能性が高そうかな。


 よし、徐々に頭が働くようになってきた。それに瞼をしっかり上げられるようにもなった。

 高くにある窓からは陽が射している。どうやらあれから一日は経過しているみたいだ。


「にしても、なんだか顔が苦しい感じがする。まだ身体も怠いし。無理に動かない方がいいな」


 せっかく鍛えていた身体がこんなにも無意味になるとなんだか虚しい。結局一度も誰かを守るために使えていないし、それどころか村の皆を危険な身にしてしまった。


 部屋に誰もいない理由として、人質も関係していそうだ。


 皆がその事実を知らされることはないだろうし、僕が知らせることもできないだろうし、本当にダメだな、僕は。


 こんな奴に本当に勇者の素質があったんだろうか。国王の言葉だったとはいえ、存命唯一の勇者のリーネさんと比べたら実力も内面も圧倒的な差があると自覚してしまうからこそ、疑念が先行する。


「これからどうなるんだろう。国王は僕を王室に加えるために捕らえたと言っていたけど」


 麻酔を打たれていたせいであのときの記憶が曖昧だ。意識が完全に飛ぶまえになんて言われたのか思い出せない。


 ただ、生きる猶予を与えられたこと、王室の一人になることを義務付けられたこと、大切な人達を人質に取られてしまったこと、この3点ははっきりと覚えている。


 ああ、それと国王が非道な人間であるということも。


 コンコンコンコン


 誰かが扉をノックしている。国王ならそんなことはしないはずだ。なら、リリアさんか。どちらもあまり顔を見たくない相手だということには違いない。


「どうぞ」


 声を返す。自然と低くなっていた。


 数秒待っても次のアクションがない。もしかすると、僕の目覚めを確認したかっただけなのか? 


 それなら部屋の前で兵を置くだけで監視と確認を並行できるのに。


「あの」


 いや、違うみたいだ。扉の外から声が聞こえてきた。


 それも女性の、リリアさんではない誰か。


「なかに入っても、いいですか?」


 わざわざそんなことを聞いてくる人に心当たりはない。今僕がいる場所に住む誰かなんだろう。


「もちろん、構いませんよ」


「ありがとう」


 感謝までされてしまった。


 声からして落ち着きがあってどちらかといえば年上のように感じる。メイドなのかもしれない。


 そうして、ゆっくりと扉が開かれる。


 そこに現れたのは長いライトブルーの髪の、僕と変わらなさそうな高い身長の女性だ。


「初めまして。私は国王であるディード叔父様の唯一の姪で、貴方との婚約が決まったミル・ライオネスです。どうぞ、よろしくお願いします」


 その全ての情報に、僕はすこしの間、なにも返すことが出来なかった。

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