4-2
(承前)
「……ってそれらしいこと言ったけど、最近ちょっと考えてることがあって。わたしがわたしになる時間にいた子たちが、みんな卒業するんだなって」
意味をはかりかねて
「みんなが成長するこの三年、四年は、わたしにとっても大きな意味のある時間だったってこと。わたしはまだ八年めのひよっこだけど、去年あたりから妙に『わたしが教えてるなあ』って実感することが増えたんだよ。みんなと共有した時間をより感じるようになったというか」
葉子がこういったことを言うのはめずらしかった。思わず背筋を正す。
「とくにみっちゃんは小野先生が好きで入れた子だから、そういったプレッシャーもあったことは白状する。最近は受け持つ生徒も増えたし、そういった中でみっちゃんがまっすぐにこの――」
と葉子はピアノに目を向けた。瞳が愛おしさをはらんで輝く。
「黒い楽器と向き合っていくのを見るのが、毎回うれしかった。音が変わるたびに、教えていることが――わたしが、ひとつひとつ肯定されていくみたいだった」
肯定。三谷は心の中で繰り返した。肯定。それを言うなら、自分こそそうじゃないだろうか。
高校では音楽科に在籍していたわけでもなく、顔合わせとも言える講習会にもろくに参加できず、最初から一般企業への就職を決めていて、ソロと同じくらい伴奏が好きで。それをいつも、先生や、みそらや、
「みそらに、講師の打診したことはもう聞いてるよね?」
うん、と軽くうなずくと、葉子も軽くうなずいた。
「何を残せるかを考えたとき、みそらにはそういう形も似合うと思ったし、みっちゃんにはまずたくさんのものを渡したかったの。みっちゃんが講師の道も、留学も、院も選ばないのは知ってるから、だから――これはおなじ専攻だからそう思うのかもしれないけど、せめて選べるようにしておきたいの。みっちゃんが将来、何かを選ぶときに、そのカードが一枚でも多くあるようにしたい。おなじ専攻で、決められたレールを選ぶことが苦しいのもわかるから、だからせめて、――っていうのが、わたしのエゴかな」
エゴ、という言葉が、こんなにも優しいのははじめてだ、と思った。利己的な意味を表す言葉が、こんなにも他人を尊重するシーンで使われることなんて、あるだろうか。
先日、みそらが言っていた言葉を思い出す。「昨日謝礼なんてものをもらったばかりで、今日はこんな提案があるなんて、まさかと思うじゃん」――いやほんと、そのとおりだよな。
「先生、優しすぎない?」
思わず言葉が転がってきてしまう。葉子は「そう?」と首をかしげた。
「見ようによっては、就活をがんばる生徒に、レッスンの枷をかける鬼講師、にもなっちゃうと思うけど」
三谷は吹き出した。
「先生が鬼講師だったの、今に始まったことじゃないよ」
「あ、――言ったわね」
葉子が目を尖らせるふりをする。そんな葉子だからこそ、三年もいっしょにいられたのだと思う。
「身内びいきだとは自覚してるけどね、それでもたまに声を大にして言いたいときが、わたしにだってあるのよ」
「言いたいこと?」
「そう」
深く、深くうなずき、それから葉子は弟子にしっかりと微笑んでみせた。
「三谷
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