転生エルフ~ここはどこ?~
三六三
第1話 捕獲
鬱蒼とした森の中、懸命に走る。
後ろでは怒号や武器の金属音が響いている。
「そっち行ったぞぉー!」
「おぉ!回り込め!」
懸命に走って逃げる逃げる逃げる、いったいどうしてこんなことに!?
今日はいつも通り、魔法の練習も兼ねて森に狩りに出た。
大きい魔法は使えないが、使える属性の多い僕は一人で狩りに出ている。
もう10歳だし!
一人で何でも出来ないとね!。
基本属性の火、水、風、土は使えるようになって大分上達したつもりだ。
最近になってやっと鑑定で名前以外の事も分かるようになってきた。
そして!なんと!念願の収納魔法を使えるようになった!!
だから、大きい獲物を求めて村から離れすぎた。
エルフは魔法が使えて当たり前の種族。
他の種族、人間やドワーフ、獣人は使える魔法が少ないらしい。
魔物のゴブリンやオークは、もっと使える魔法が少ないと村長は言ってた。
エルフの村の村長が親代わりに僕を育ててくれて、魔法も教えてくれる。
僕の両親は冒険者をしていたが行方不明になって帰って来ない。
エルフ狩りというか、奴隷狩り討伐依頼を受けて出立したきり音信不通。
お父さんはその場で殺されて、お母さんは辱められる前に自害したんじゃないかって…もっと酷い事を言う奴もいるらしい。
僕はまだ小さかったから、状況が理解できなかった。
お父さんとお母さんは何日も帰って来なくて、ただ只管待っていた。
幼いながら分かったのは、もうお父さんとお母さんには会えないって事。
その後、村長に引き取られて暮らしている。
昔には人間はエルフの容姿の良さと魔法の力を求めてエルフ狩りをして奴隷にしていた時代があった。
その後、戦争になってエルフが勝利して、もうエルフ狩りは行わない。エルフを奴隷にしないと約束して平和になった筈だった。
平和になった。その筈だったのに。
エルフ狩りは無くならない。
汚い冒険者たちがエルフの女性を求めて森にやってくる。そんな人間を見つけた時は絶対に見つからない様に隠密の魔法で隠れて逃げる。
でも、様々な罠を仕掛けられて、被害に逢うエルフの女性は後を絶たない。
エルフを襲って攫おうとする人間たちは、捕まえて街の衛士と呼ばれる人間に引き渡すと、幾らかのお金と引き換えにエルフ狩り達を引き取ってくれる。
エルフ狩り達は重犯罪奴隷として鉱山に送られるって話してた。
ある日、冒険者組合の人が来てお父さんお母さんの捜索は打ち切りになって1年以上経つので、組合に預けてあったお金は僕に渡されると持ってきた。
組合にお金を預ける際に、万が一の場合は誰に渡すかを決める約束をして、お父さんとお母さんは僕に渡すように手続きしてたって。
そのお金を渡されたけど、お父さんお母さんと引き換えのお金なんて要らない。
お父さんお母さんを返してくれって、お父さんとお母さんと暮らした家で、いつでも帰って来れるようにしてるんだ、もう帰って来ないなんて言うな!って泣き喚いた。その時の僕はまだ気持ちも身体も幼すぎた。
それから村長の家にお世話になってる。
人間の中にはエルフ狩り達も居るし、衛士の様な真面な人も居る。
確かにエルフの中にも悪い事をする奴らも居るけど、人を捕まえて売るような事はしない。
人間全てが敵じゃない事は、理解はしてるが納得はしてない。信用は出来ない。
様々な事が理解できる様になって、魔法も覚えて、15歳の独り立ちまであと5年。まだまだ様々な事を覚えなきゃいけない年頃だった。
そんな頃に僕はエルフ狩り達に捕まった。
冒険者風の汚い恰好をした男たちと偉そうな態度の貴族みたいな若い男に、首輪と手枷足枷を付けられて、檻になってる馬車に放り込まれた。
中には僕の他に獣人の女の子が2人。
隅っこに寄り添って泣いていた。
「チクショウ。なんてことするんだ。」
僕の呟きに女の子たちは怯えた目を向けるが、僕も首輪などが付けられてるのを見て、同じように捕まったのだと分かったみたいで、恐る恐る話しかけてきた。
「…君も捕まったの?」
「あぁ、狩りに出て獲物に気を取られてて罠に掛かっちまった。」
「君の名前を聞いても良い?私はロココ、この子はラササ。」
「ラササです…」
「僕はクロス。10歳だ。」
「私の方が少しお姉さんね。私は11歳。ラササは8歳よ。」
二人の獣人の女の子と話して、少し落ち着いてきた。
ガタッガタッギシギシギシ・・・
その時、馬車が動き出した。
前側の窓になってる布を捲って、汚い男が顔を出した。
「ガキどもぉ、大人しくしとけよぉ。」
そう言いながら革の水袋を投げて寄越した。
それを拾って女の子たちに渡す。
「先に使いな。僕は魔法も使えるし後で良いよ。」
それを聞いた汚い男は、
「ぎゃはははは!エルフのガキは紳士だねぇ~!魔法が使えるってか?出来るもんならやってみなぁ。」
ムッとして汚い男を睨み返す。
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべてるので、水でもぶっかけてやろうと水魔法を発動させようとしても…
「あれ?」
「どうしたい?紳士なエルフさんよぉ。魔法得意なんだろ?」
何度魔法を発動させようとしても、なんか邪魔されて霧散する様な感じで発動しない。
「あれ?おかしい…」
「あひゃひゃ!そりゃおかしい訳だ!魔封じの手枷足枷を付けて魔法発動出来たらバケモンだな!いや、3倍の値段で売れるかぁ?ぎゃはははは」
御者の男とそんな事を言って笑っている。
くそっ!そう言う訳か。
手足に嵌められた枷にはそんな効果があったなんて。
そう言えば、獣人の女の子たちにはこんな枷じゃなく、丈夫な革で縛られている。
種族によって違う拘束具を準備してるなんて、プロって事か。
しょうがないからこの場は諦めて大人しくすることにした。
逃げ出せる機会をじっと待とうとロココとラササとも話をして、横になり体力を消耗しないように寝る事にした。
横になり、なんであの時もっと周囲を警戒しなかったのかとか後悔の気持ちが湧いてきたが今更だなと、これからどうするかを考える事にしてるうちに眠ってしまった様だった。
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