第24話公爵令嬢と命のタイムリミット①
ロンはどんどん郊外へ向かって急ぎ足で歩いて行く。
町の喧騒は遠退き、周りの景色は虫の声や鳥の囀りがよく聞こえるほど緑で溢れていく。
「どうして町から離れていくの?」
病人のために必要な医者や物資、看病する人手を考えれば、町に近い方がいいはずなのに。
「病が、うつるって。近づくな、どっか行けって、言われる。人が、いないところに、行かないと、何されるか、分からないから。」
先を急いでいるロンは、息を切らせながらそう教えてくれる。
そして、郊外へ押しやられているのは自分たちだけじゃないことも。
つまり、奇病にかかった貴族以外の人は迫害を受けているということね。
私はぎゅっと唇を噛み締めた。
町を統括している貴族は何をしているのか。
きちんと責務を果たさず、己の保身へ走った貴族たちへ憤りを感じる。
あの大臣たちは、町は落ち着いたと話していたことから、何らかの理由できちんとした調査が行われていないこと、陛下への報告も終息したという内容でされていると考えた方がいい。
そうなれば、国が対策をとることはない。
まだ苦しんでいる人がいるにもかかわらず、だ。
それは後々王家への不信感と繋がっていくだろう。
だが、今回の件は王女が絡んでいることもあって、アルフレッドが大臣たちとは別ルートで調べてくれているに違いない。
アルフレッドなら、きっと気付いてくれる。
町から急ぎ足で30分ほど歩いたところで、ロンが急に立ち止まる。
ロンの背中だけしか見ずに考え事をしていた私は、ロンにぶつかりそうになるところを寸でのところで踏ん張った。
「ここだよ。」
ロンが振り返って言った先には、廃れた教会がひっそりと佇んでいた。
「母さん!」
教会の中へ駆け込むロンを追い掛けて、私も中へと入る。
「こ、れは…」
私は中の様子に呆然と声が漏れる。
教会の中は、礼拝堂の椅子が埋め尽くされるほどの人で溢れていた。
彼らはみな、痛みに堪えるように苦悶の表情を浮かべている。
中には、椅子の上で恐らく事切れているだろう人も。
その人の毒々しい濃い紫色に変色した爪が目に焼き付く。
「どうしてこんな…、酷い。」
目の前の凄惨な光景にそれ以上の言葉が出なかった。
「母さん!!」
ロンの悲痛な叫び声に、私ははっと顔を上げるとロンに近づく。
ロンがすがり付いている人は、脂汗をかいて目は虚ろで、意識があるようには見えなかった。
その人の爪も、薄い紫色に染まっていた。
「ロン。お母様のその爪は…?」
「…っ、この病気で死ぬ人は、死ぬ前にみんな爪が紫に変色するんだ。
でも母さんのはまだ薄い!ねぇ、約束通り連れてきたよ!助けてよ!助けてくれるんでしょう?!」
ロンの悲痛な声が教会中に木霊する。
このまま城へ帰ってアルフレッドに伝えることも考えた。
そうしたら、アルフレッドがすぐに対応してくれるだろう。
だけど、それではロンのお母様は間に合わない。
それに、他にも猶予が残されていない人がいるかもしれない。
幸いなことに、この辺りは緑で溢れているため、薬草もたくさん生息していた。
ここへ来る間に、見慣れた薬草が自生しているのも見つけた。
ーーーーー私にもできることがあるかもしれない。
固唾を飲んで私を見つめているロンの前に膝を着いて、ロンと目線を合わせる。
「ロン。私も初めて見る症状で、進行してる状況のあなたのお母様を助けられるかは分からない。」
ロンの顔がくしゃりと歪む。そんなロンに、だけど、と私は付け足す。
「だけど、私も最後まで諦めない。私は私のできることをするわ。お母様を助けるために、ロンも手伝ってくれる?」
ロンはすがるような眼差して私を見つめたあと、涙をぐっと袖で拭って、力強く頷いた。
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