第十五話 依頼受諾



 両親が参加した輸送隊からの情報収集を済ませた僕は、エルサさんたちに留守番を頼み、両親が何の依頼を受けたのかを知るため、ベルンハルトさんとトレッドさんと三人で冒険者ギルドに向かった。



 冒険者ギルドに到着し、ギルドマスターに面会を希望すると、清算待ちしているトレッドさんと別れ、二階の個室に通される。



「これはベルンハルト殿、久しぶりですな。また、お会いできてよかった」


「スコット殿も、今回の異常気象への対応でお疲れのご様子ですな」



 ベリアの街のギルドマスターであるスコットさんは、かなりの高齢な方だった。そして、季節外れの大雪の対応に追われた疲労感が表情に出ている。



「ええ、まぁ、領主殿は王都にて政務をされてて不在ですし、代官の方も頼りにはならず。我らが対応をしている有様です」


「それは大変なご苦労でしょうな……」


「まぁ、それはよいのです。この地で冒険者ギルドを開設する際、領主殿と交わした契約ですからな」



 ベリアの街は、ミーンズと違って領主が冒険者ギルドのギルドマスターを兼任してないらしい。



 アグドラファンと同じように領主から許可をもらって、冒険者たちの統括業務を請け負ってる組織っぽい。


 本当なら異常気象への対応は統治権を持つ、領主が任じた代官側の仕事だと言いたいんだろうなぁ。けど、代官もこれだけ大規模な異常気象には対応できる権限がないから、冒険者ギルドを頼ってるって状況みたいだ。



 疲労感の浮かんでいるスコットさんの目が、僕の方に注がれた。



「それよりも、そちらの若者が、最近よく名を聞くようになったロルフ殿かね?」


「ええ、そうです。彼はとても優秀な冒険者ですよ。私の若いころに比べれば格段に優秀です」


「ロルフ殿の最近の活躍は、冒険者ギルド間でも話題になっておりますからな。今後もよろしくお願いします」



 スコットさんは偉ぶる様子も見せず、丁寧に頭を下げて挨拶をしてくれた。



「僕はまだまだ駆け出しの冒険者なので……。頭を上げてください」



 丁寧な挨拶をしてくれたスコットさんに、すぐに頭を上げてもらう。分不相応な対応は自分がすごい人物になったと錯覚してしまう。



 今の僕の得ている評価は仲間がいなければ得られなかったものだ。だから、勘違いをしないよう身を律している。



「本当に良くできた若者ですな」


「ええ、きっとご両親の教育の賜物でしょうな」



 両親の教えもあるけど、それと同じくらいベルンハルトさんたちの指導の賜物だとも思っている。



「そう言えば今回の当ギルドへの来訪の目的は、ロルフ殿のご両親である白銀等級のギオルギー殿とソレーヌ殿の件でしたな。立ち話も何ですから、おかけください」



 スコットさんが勧めてくれた椅子に腰を下ろし、本題である両親のことを聞くことにした。



「それで……。僕の両親がこのギルドで依頼を受けたという話は本当でしょうか?」


「結論から言うと、ディロス山の山頂の異変調査の依頼をギオルギー殿とソレーヌ殿に受けてもらっています」


「山頂の異変調査依頼ですか……」


「ええ、最初はディロス山への地図を求めて来られたのですが、三度送り込んだ調査隊が未帰還となり、ディロス山のへの入山を規制しているとお伝えしたのです」


「それなら、なぜ僕の両親が調査依頼を受けることになったのです?」


「実は、入山を断ると、お二方は神殿の聖印を見せられて、ディロス山の山頂にある創世戦争時代の遺跡調査を委託されていると申されまして……」



 トレッドさんは、そんな遺跡はなかったとか言ってたけど……。もしかして、アグドラファンやミーンズの遺跡みたいに、人目から隠れてて見つけにくい場所にあるのかも。



「神殿からの依頼では断るわけもいかず、両親に地図を提供したということですか?」



 冒険者ギルドとしても、ドワイリス様の神殿から依頼を委託されてることを提示されたら、協力しないわけにはいかないだろうし、そうするしかないか。



 父さんも母さんも僕を助けるって言ってるみたいだけど、それと創世戦争時代の遺跡調査と何の関係があるんだろうか……。



 でも、両親の行動は別にして考えても、ベリアの街に起きてる異常気象は、たぶんミーンズと同じように、ディロス山の山頂の創世戦争時代の遺跡が原因として絡んでそうだ。



「ええ、まぁそうです。そして入山され、山頂に向かわれるなら、山頂で何が起きているのか調査もして欲しいと追加でお願いしたのですよ」



 スコットさんは、雪が吹きすさぶ窓の外に、うっすらと見えるディロス山の山影を見つめた。



「……正直、雪解けした山頂に光の柱が昇ってから、この異変が起きたので、あそこに何か起きてると思うしかない状況……でして」


「僕の両親はその依頼も受け、街を出たということですかね」


「ええ、そうです。装備を急いで整え、昨日の朝、出発されました」


「丁寧に教えていただき、ありがとうございます。受けた理由と行き先が分かってよかった」



 黙って話を聞いていたベルンハルトさんが、おもむろに口を開いた。



「では、我々の行き先も決まったようだ。スコット殿、申し訳ないが、我々もギオルギー殿たちを追って、ディロス山に入山させてほしい。ロルフ君と両親を引き合わせるついでに、異変調査の手伝いもさせて欲しいのでね」


「おお! ベルンハルト殿までが、異変調査を手伝って頂けるなら、ぜひともお願いしたい!」



 異変調査に助力を申し出ると、スコットさんの顔がパッと明るくなる。



「ということだ。ロルフ君、これから馬車に戻ってディロス山に向かう準備をするぞ」


「は、はい! 雪山は初めてですけど頑張ります!」



 追い続けた両親にもうじき会える喜びと、ディロス山に起きている異変に自分が関わっているのではないかという不安感がごちゃ混ぜになって、緊張で身体が震えてくる。



「では、当ギルドからも案内人を付けるようにします。明日の早朝までには選定しますので、出発前に冒険者ギルドへ立ち寄ってください」


「心遣いに感謝する。必ずや、異変の原因を見つけ出しますぞ」



 僕たちは冒険者ギルドを後にすると、馬車に戻ってディロス山へ向かう準備を進めることにした。


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