第五話 情報収集
商店街の中に入った僕たちは、情報集めのため、いろんな店を見て回っていた。
「リズィー、あれ美味しそうだねー。美味しそうな匂いしてるよぉ」
ナグーニャとリズィーは、仲良く屋台で売られている美味そうな肉串を見ていた。
「でも、最近リズィーは食べ過ぎだからガマンだよー」
「わふうぅ……」
フェニックスの魔石を食べて以降、日に日に身体が大きくなってるもんなぁ。今は僕の胸くらいまであるし、大人の狼って周囲に思われることも増えた。
いちおう、トラブルにならないよう街中では首輪に綱を繋げて、ナグーニャに持ってもらってる。リズィーは賢いからナグーニャを引っ張って転ばさないよう、気を付けて歩いてくれていた。
「リズィー、ナグーニャちゃん、あれ食べたい?」
じっと屋台の肉串を眺めている二人の様子を見ていたエルサさんが声をかけた。
「ナグーニャ、食べたいけど……。リズィーも一緒に食べたい」
「まぁ、ちょっと食べ過ぎだけど……。今日はいっぱい歩くから大丈夫かな。おじさーん、その肉串二つ下さい」
肉串が食べられると知った二人はパッと顔を明るくさせた。屋台の主がアツアツの肉串を差し出したのをエルサさんが受け取ると、僕が代わりに代金を支払った。
「ごめん、後で払うよ」
「全然、いいですよ。冷めないうちに二人に渡してあげてください。待ちかねて涎が出てるみたいだし」
「あ、うん。ありがと」
エルサさんが二人に肉串を渡している間に、屋台の主に本来の目的である情報収集をする。
「ちょっとお聞きしたいんですけど……。最近、この店に右頬に大きな傷のある男性と、左手首に女神ドワイリス様の聖印の入れ墨のある女性の二人組が来たことありますか? 歳はどちらも四〇代くらいなんですが?」
商品を購入したことで屋台の主の反応は良いみたいだ。該当する人物がいないか考えてくれてる様子だった。
「頬に傷のある男とドワイリス様の聖印の入れ墨を入れた四〇代の男女か……。うちじゃ、見かけたことはないなぁ~」
「そうですか……」
ここでも父さんたちの情報は得られないかぁ。僕らが掴んでいる最後の目撃情報は、二つ前の宿場町でベリア方面に向かう乗り合い馬車に乗ったところを見た人がいるって話だった。
ベリアに向かってると思いたいけど、もしかしたら別の街に向かってるかもと不安に感じる。
「最近はミーンズの街が鍛冶を再開したことで、街道を南に向かう人が増えて、店に来る人も増えたしな。もしかしたら、会ってるかもしれないが、わしの記憶には残ってないね。役に立たなくてすまないな」
屋台の主が申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、いいんです。それよりも、そっちの芋を揚げたやつを二つくれませんか?」
食べ歩きにちょうどいい、薄切りされた芋の揚げ菓子を注文する。
「はいよー」
あつあつを出してくれるようで、薄切りの芋を揚げ始めた露店の主に代金を払いながら話を続ける。
「さっきとは別の話になるんですけど、今、ベリアの街が大変だって話を聞いたんですが、知ってます?」
「ああ、季節外れの大雪に見舞われて街道の除雪が間に合わないって話だろ。聞いてる。聞いてる。おかげでこの宿場町はかつてないほど人が溢れててねぇ。わしも商売繁盛してるってわけさ」
「なんでそんなことになってるんですかね?」
「なんでも、ベリアの街の北にあるディロス山からずっと雪雲が流れ込んで大雪を降らせてるらしいぜ。もう、初夏も近い季節なのによ。ここらも寒冷の地だけど、さすがにこの時期まで雪が降るなんてことは経験したことないぜ」
「ディロス山で何か起きてるんですかね?」
「どうだろうなぁ。でも、ベリアから来た客の話だと、春に一度雪解けしたって話だ。その後、急に山頂が吹雪始め、ベリアにも雪雲が流れてきたって言ってたな」
「ってなると、降り始めたのは二カ月くらい前ですか?」
「ああ、たぶんそれくらいだ。雪はどんどん酷くなってるらしいぞ。街道を通る馬車の数もかなり絞られてるしな」
「なるほど、僕らベリアに向かってるんですが、そういう状況だとここで足止めですかね?」
「かもなぁ。でも、冒険者ギルドで除雪の手伝いをしてくれるやつを募集してるらしいぞ。それに応募すればベリアまで行けるんじゃないか」
「貴重なお話をありがとうございます。じゃあ、買い出しが終わったら行ってみますね」
「ああ、そうしな」
揚げ終った薄切り芋の揚げ菓子を受け取ると、肉串を食べ終わって満足そうな二人とエルサさんたちのところに戻る。
「エルサさんも食べます?」
「いいの?」
「ええ、そのために買ったやつです」
エルサさんの前に、あつあつの揚げ菓子を差し出すと、ナグーニャとリズィーは欲しそうな顔をした。
「二人はこっち。熱いから気を付けてね」
「あーい! 分かった!」
ナグーニャに、アツアツの揚げ菓子が入った紙袋を渡してあげる。
「リズィー、ナグーニャが先に味見するねー」
紙袋から出した揚げ菓子をナグーニャがふぅふぅと冷ましてから口に入れた。次の瞬間、目が見開かれ、鼻息が荒くなる。
「んまぁあああああああああっ! 美味しいよぉー。薄切りのお芋がパリパリしてて、ちょっぴり塩味がするぅう」
「わふう! わふ」
その様子を見たリズィーが、クレクレとナグーニャにアピールをする。
「あちちだから、冷ますよー。ちょっと待ってー」
「ロルフくーん」
ナグーニャたちが食べてるところを見てたら、背後からエルサさんに声をかけられ振り返ると、口の中に揚げ菓子が差し込まれた。揚げ菓子はほどよく冷めており、ナグーニャの言った通り、パリパリの食感とほのかな塩味がして美味かった。
「おいひいです」
「ちゃんとあたしがふぅふぅして冷ましてあげたからね」
エルサさんから発せられた唐突な言葉に顔が火照る。
無意識でやってくれたことだと思うけど、改めて言われると意識してしまって照れちゃう。
「エ、エルサさんも食べてみてくださいよ。美味しいですよ!」
紙袋の中の揚げ菓子を手にすると、エルサさんの口元へ差し出した。
「ロルフ君はふぅふぅしてくれないのかな?」
そんなふうに聞かれると、しなきゃマズいって思っちゃいますけど⁉ した方がいいんですかね!
「ふぅふぅした方がいいですか?」
迷いのない笑みを浮かべたエルサさんが何度も頷くのを見て、手にした揚げ菓子を冷ますため、息を吹きかけた。
「ありがとうー。んんっ! おいひいねー」
嬉しそうに差し出している揚げ菓子を頬張ったエルサさんが可愛すぎて眩暈がする。ミーンズで自分たちの馬車を手に入れたこともあり、夜は自分たちの馬車で寝るようにもなったけど、まだまだエルサさんの距離感の近さと可愛さに慣れてない自分がいた。
「リズィー、エルサとロルフがまたイチャイチャしてるよぉー」
「わふう」
声に気付き、視線を向けると二人がジッとこちらを見上げていた。
「じゃあ、ナグーニャはリズィーにふぅふぅするね」
ナグーニャが手にした揚げ菓子に息を吹きかけ冷ますと、リズィーの口元へ差し出す。
「わふ、わふ、わふ」
「ナグーニャちゃん、リズィーに揚げ菓子をあんまりいっぱい食べさせたらダメよ。油と塩分が多いしね」
「あーい。リズィーは終わりー」
「わふう」
名残惜しそうな顔をするリズィーだったけど、人用の食べ物は刺激が強いから仕方ない。それからしばらく揚げ菓子を食べて軽く腹ごしらえをすると、まだ集合時間には余裕があるので、次の目的地を探す。
「さて、まだまだ情報集めしないとね」
「雑貨店に寄ってもいいかな?」
「そうですね。探しながら行きましょうか」
「行く、行く! リズィー出発するよー」
「わふう!」
次の目的地を雑貨店に決めた僕らは、屋台街を抜け、商店街の中を歩き出した。
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