第四話 異変


「それにしても、馬車が多いね。今までの宿場町だとこんなに停まってることなかったのに」



 停車準備を一緒に始めたエルサさんが、周囲をキョロキョロと見回している。



 たしかに今までの宿場町の停車場よりか、停まっている馬車の数が多いみたいだ。



ベルンハルトさんたちの話だと、北に向かう街道はそこまで馬車が多くないって聞いてたけど。この数の馬車……。ミーンズの街の時みたいに何か起きてるんだろうか?



 近くに停まっていた馬車から出てきた若い商人の男性に声をかけた。



「何かあったんですかね?」


「雪だよ。雪。季節外れの大雪でベリアの街に到達するのが困難になりつつあるのさ」



 男性の頬は赤黒くなっており、凍傷のような痕が見える。



「雪ですか? ここには積もってませんし、それにもうじき初夏を迎えますよ?」


「俺はベリアから食糧を受け取りに、このモートンまで来たから間違いねえって。もともと寒冷の地だけどいつもなら雪も溶けてるはずなんだがな……。今年は冬が終わって、さぁ春だって思った矢先、二カ月間ずっと雪が降り続いてる」


「二カ月間、ずっとですか⁉」


「ああ、そうだ。ベリアの街の住民総出で道を除雪してるが、雪が多すぎて除雪が間に合ってないし、街道は馬車がすれ違えないほど雪が高く積み上がってる。だから、このモートンにベリアへ向かう馬車が溜まってるのさ。俺もいつ自分の順番が来るか分からず待っているところだ」



 何かすごいことになっているみたいだ。異常気象ってこんなに頻発するんだろうか? もしかしてミーンズの街みたいなことが起きてるのかも……。



「じゃあ、僕らもしばらく足止めですかね?」


「さぁ、冒険者なら、冒険者ギルドから出てる除雪の依頼を受ければ先に行かせてくれるかもしれないぜ」


「除雪の依頼か……。情報を教えて下さりありがとうございます!」



 僕は若い男性の商人に頭を下げると、話を聞いていたエルサさんに視線を向けた。



「何かミーンズの街で起きたことみたいな感じがするね」


「エルサさんもそう思いました? 実は僕もそれを考えてました」


「とりあえず、どうするべきかをベルンハルトさんたちと話し合った方がよさそうかも」


「ですね」



 停車準備を急いで終わらせると、先に準備を終えたベルンハルトさんたちが姿を現した。



「ロルフ君、エルサ君、商人たちから話は聞いたかね?」


「ええ、どうもこの先の街道は季節外れの大雪のため、進める馬車が制限されてるみたいだと聞いてます」



 表情から察するに、ベルンハルトさんたちも、僕たちと同じような考えに至ってそうだった。



「異常気象の発生時期も二カ月前ってなると、わたしたちがフェニックスを討伐した時期と被るよねぇ。フェニックスもキマイラを倒したら活動を開始したみたいだったしさぁ」


「今度は雪を降らす魔物かなぁー。ヴァネッサママ、そんな魔物いるの?」


「んーーー。氷属性の魔法を使う魔物はいるけど、街全体……いや地域全体を雪で埋め尽くすような魔物なんていないわよね。ベルちゃん」


「たしかに、そんな強力な魔法を使える魔物の話は聞いたことないな」



 僕ももらった魔物図鑑を調べてみたが、該当するような広範囲に影響を及ぼす魔法を使える魔物はいない。考えられるとしたら、僕らが倒してきた2体の新種の魔物と似た存在だろう。



「該当するような魔物がいないなら、新種ですかね?」


「かもしれないわね。またキマイラやフェニックスみたいなやつが目覚めたのかもよ」


「もしかしたら、アグドラファンやミーンズみたいに創世戦争時代の遺跡が、ベリアにもあるって感じですか?」



 キマイラもフェニックスも創世戦争時代の遺跡に封じられてたっぽいし、今回の雪を降らせてる魔物もそういった可能性が高い。



「それは分からない。可能性はあると思うが……」


「とりあえず、ロルフ君のご両親の情報集めをしつつ、ベリアの街の異変のことも調べてみませんか?」


「ああ、そうだな。情報がないまま考えても仕方ない。エルサ君の意見を採用しよう」


「買い出しと仕入れもしつつ、街中での情報集めは任せてください。ベルンハルトさんたちが冒険者ギルドとかを訪ねた方が情報も集まりやすいですよね」



 ベルンハルトさんたちの方が有名だし、偉い人たちとの面会はお任せした方が、情報は集まってくれる。僕も図鑑登録したことで少しは有名になったけど、まだまだ実績不足だし、上手く情報を引き出すには会話の経験も高めないと。



「分かった。じゃあ、街中はロルフ君たちに任せよう。であれば、悪いがリズィーとナグーニャを一緒に連れて行ってやってくれ。我々が行くギルドの方は待ってる時間が長いだろうし、馬車にいるのも暇だろうからね」



 たしかに、待ってるのも暇だろうし、リズィーも運動させてあげないとな。



「いいですよ。リズィーも最近成長が著しいから運動もしないといけないですしね。ナグーニャが一緒ならはぐれることもないでしょうし」


「では、頼む」


「やったぁ! ロルフたちとお買い物してくるー! リズィーの首輪を買い替えようね」


「わふう!」



 それぞれ向かう先を決めた僕たちは、二手に分かれて情報収集をすることにした。


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