第四九話 通路の先
※ロルフ視点
地面が消え去り、穴の中を落下していく感覚に恐怖を覚え、このまま自分が墜落死するのではと思い始めたところで、地面に投げ出された。
「いてて……。落とし穴? いや、滑り落ちてきたのか!」
「おひざいたいよぅ……。リズィー、ヴァネッサ、ロルフ、エルサ、ベルンハルトどこー」
暗闇の中でナグーニャの声が聞こえる。ベルトから短剣を引き抜くと光を発動させた。
「ナグーニャ! 大丈夫かい?」
「あー! ロルフ! みんな穴に落ちちゃった! ナグーニャも足もとが消えたと思ったら、滑り落ちてきたよ!」
ナグーニャは、滑り落ちた際、少し膝をすりむいているようだ。
「ちょっと染みるけど我慢してね」
ポーチから消毒薬を出すと、綺麗な布に染みこませ、傷口を消毒する。
「うぅ、染みるよぉ」
奥から何かが駆けてくる音が聞こえたかと思うと、リズィーが飛び込んできた。
「あー! リズィーだ! だいじょうぶ?」
ナグーニャの問いにリズィーは元気よく吠えて応えてくれた。
「リズィーは大丈夫みたいだね。エルサさんとか、ベルンハルトさん、ヴァネッサさんは――」
「ロルフちゃん、ちょっと手を貸して。なんで、わたしのところだけ狭くなってるのかしらね。もう!」
声のした方に明かりを向けると、下半身だけ飛び出したヴァネッサさんが、穴につかえているのが見えた。
「手伝います!」
「ナグーニャもてつだうー!」
2人でつかえているヴァネッサさんの下半身を掴み、穴から引っ張り出していく。
なんとか、引きずり出すことに成功した。
「ふぅ、挟まったまま死ぬかと思ったわ。それにしても、あんな罠をしかけるなんてね」
石像と戦闘している最中、まさか地面に穴が開くとは思わなかった。
「ベルンハルトさんとエルサさんは?」
「一緒じゃないの?」
ヴァネッサさんに言われ、周囲を照らすけれど、2人の姿は見えなかった。
「いないみたいだね。ベルンハルトとエルサ」
リズィーも鼻をクンクンと鳴らし、周囲を嗅ぎまわっているが、2人の匂いをみつけられていないらしい。
「はぐれたって感じですかね?」
「みたいねー。エルサちゃんは最悪、破壊の力を使えば、自力で脱出できるだろうし、ベルちゃんはベテラン冒険者だから、そう簡単に死なないから大丈夫だと思いたいわね」
あの時、僕がエルサさんの手を掴み損ねなかったら、離れ離れになることはなかったはずなのに!
戦闘後のことに意識を向けて、油断していた自分に冒険者としての未熟さを感じた。
「ロルフちゃん、今は自分の失敗を反省している時じゃないわよ。無事にみんなと合流することを考える時」
ヴァネッサさんには、すぐに僕の気持ちを見透かされる。
そうだ。今は悔やんでる時じゃなくて、エルサさんたちと合流できるようどうするべきか考えないと。
「はい、すぐにエルサさんたちと合流しましょう!」
「そうね。とりあえず、通路を進むしかないんだろうし」
「ナグーニャも頑張る!」
僕たちは、エルサさんたちとの合流を目指し、通路を進むことにした。
「敵のお出ましのようね。やはり、溜まってる闇のせいで魔物がいるらしいわ」
通路の奥からガシャガシャと音を立てて現れたのは、鎧を着た骸骨だった。
「スケルトンナイト! こんな強い魔物が!」
「ロルフちゃん、援護はするけど、ちょっと頑張ってね。さすがにスケルトンナイトの大群を捌くのは一苦労よ!」
「はい! 前衛は任せてください!」
「ナグーニャちゃんは、わたしのそばを離れたらだめよ!」
「あい! ロルフ、光る短剣かしてー! ナグーニャ、明かり係する!」
「助かるよ」
光源になっている鉄の短剣をナグーニャに持たせると、僕は盾と守護者の剣を構えて前に出た。
「行くわよ!」
ヴァネッサさんの詠唱が後ろから聞こえたかと思うと、光の矢が何本も敵に向かって放たれる。光の矢はスケルトンナイトたちに突き立ち、歩みを止めさせた。
効いてるみたいだ! ヴァネッサさんたちに近づけないよう、敵を阻止しないと。
「土よ!」
発動ワードを唱え、鎧に付与された基本的な防御力をあげる魔法を発動させる。
「こっちだ!」
動きを止めた先頭のスケルトンナイトに守護者の剣を振り下ろす。
剣は紙を切るような用意さで硬い鎧を斬り裂いた。
仲間を倒されたスケルトンナイトたちの敵意が、いっせいに僕の方へ向いた。
こちらに向かって振り下ろされた剣を盾で逸らすと、隙のできた脇腹を斬り上げる。
「お前らの相手は僕だ!」
骸骨の奥の赤い光が僕に向けられる。
十数体のスケルトンナイトの振るった剣が、こちらに向かってきた。
受けて逸らしてる余裕はないな。
今の僕なら防御力の増した鎧の性能でダメージは軽微なはず!
振り下ろされる刃をものともせず、スケルトンナイトの集団に向かって突進する。
振り下ろされた刃は、伝説品質の鉄の鎧を貫けず、弾き返されていき、体勢を崩したスケルトンナイトたちが、もつれあう格好になった。
「もらった!」
体勢を崩したスケルトンナイトたちを目指し、守護者の剣を振り抜く。
斬撃を受けた数体が、そのまま床に崩れ落ちていった。
「ロルフちゃん、援護飛ぶわよ!」
ヴァネッサさんが、二度目の魔法の詠唱を始めたのが聞こえ、すぐにその場から立ち退く。
先ほどよりも太い光の槍が、スケルトンナイトたちの胸を貫いた。
「あとは魔力を温存したいから任せるわ! よろしく!」
「はい! まかせてください!」
剣を握り直した僕は、起き上がり始めたスケルトンナイトに目を付け、起き上がらせないよう駆け抜け様に斬撃を加える。
「まだだ!」
起き上がろうとした別のスケルトンナイトを鉄の盾で殴りつけると、その胸に剣を突き立てトドメを刺す。
骸骨の奥の赤い目が光を失うと、骨はバラバラになって動く気配を見せなくなった。
「ふぅ! 討伐完了」
「おつかれー。ロルフちゃんも頼れる前衛になってきたわねー。スケルトンナイトってそれなりに強いからね」
「まだまだ、装備の力ですよ。もっと、頑張らないと」
「まけっしょう、手に入れたー! きれー」
討伐したスケルトンナイトが、素材である黒い骨と魔結晶に変化をしていた。
「ナグーニャちゃん、回収よろしく!」
「あい! かいしゅー! リズィーも拾ってー!」
ナグーニャとリズィーが落ちた素材と魔結晶を集めて背嚢の中に詰めてくれた。
「それにしても、この遺跡は何のために作られたんですかね?」
「墓所って気もするけど、それだけじゃなさそうね。それもなんだか怪しい品だし」
ヴァネッサさんが、僕のベルトに差してある金属製の鞘を指差していた。
「守護者の剣の鞘っぽいって話をしてました。ほら、きちんと長さも厚さもちょうどいい感じです」
守護者の剣を鞘に納めてみると、専用の鞘のようにしっかりと納まった。
「そうみたいね。でも、仕掛けっぽいものが付属してる感じね」
鞘に収まった守護者の剣を眺めていたヴァネッサさんが、鍔の飾りが鞘に引っかかる部分を気にしていた。
「抜け止めですかね?」
「にしてはやたらと凝った作りしてるわ。まぁ、でも今は気にしてる時じゃないわね」
「戻ったらきちんと調べた方がよさそうです」
「そうね。ドワイリス様の眷属の遺品とかなら、神殿に報告しておかないと面倒なことになるだろうしね」
両親かもしれない2人組が、この遺跡を調べようとしてたから、神殿もこの遺跡は把握してるんだろうけど……。
ドワイリス様関連の物は申告しないとマズいよね。
守護者の剣が納まった鞘を見ていたら、背後から声が掛けられた。
「かいしゅーかんりょー」
素材と魔結晶を詰めた背嚢をナグーニャが差し出してきた。
「ありがと。助かるよ」
「じゃあ、出発! まだまだ通路が続いてるわ」
「あい! しゅっぱーつ」
背嚢を背負うと、先頭に立って、再び通路を進んでいく。
その後、数度の魔物との戦闘を経て、広くなった場所に出た。同時にものすごい熱を肌に感じる。
「あっつ!」
溶岩! あれって溶岩だよね!
「ヴァネッサさん! あれって!」
「溶岩ね。遺跡はグラグ火山まで続いてたみたい。それにしても魔素が濃すぎね。ナグーニャちゃんにはちょっときついわ」
ヴァネッサさんが、杖を光らせ詠唱すると、ナグーニャが緑の淡い光に包まれた。
「らくになったー。あーがと、ヴァネッサ」
顔色を悪くしているナグーニャが、大丈夫だとアピールするようにニコリと微笑んだ。
熱さもあるけど、気分の悪さは魔素の濃さのせいか。
「この濃い魔素が、遺跡の通路を通じて、炭焼きの森を白化させてたのかもしれないわね。普通にいるだけで、相当きついし」
ヴァネッサさんが僕に向かって、詠唱しながら杖を振る。
淡い緑の光が身体を包むと、気分の悪さが解消した。
そして、ヴァネッサさん自身にも魔法をかける。
「ふぅ、熱いのは溶岩のせいだろうけど、魔素の濃さが尋常じゃないわ。いったい、何がどうなったらこんな濃い濃度になるのかしらね。文献で読んだ大いなる獣が作った魔素が濃い、闇の世界ってこんな感じだったのかしら」
「リズィー、だいじょうぶ?」
ナグーニャの問いかけにリズィーは首を傾げる。
リズィーはこの濃い魔素の中でも平気らしい。
魔狼って言うのが影響してるのかな。
キマイラの魔石を食べちゃってるから、魔物でないとは言い切れないんだよなぁ。
鼻をクンクンさせていたリズィー、急に吠え出した。
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