第二四話 破壊成功?
回収作業を終えると、精霊樹の幹の前に立った。
「ロルフ君、合図の準備はいい?」
「はい! ベルンハルトさんから預かった信号弾を打ち上げれば、夜の闇でも見逃されることはないはずです」
「じゃあ、発動させるけど、十分、周囲には注意してね」
「エルサさんこそ、注意してくださいね」
頷いたエルサさんは、手袋を外し、口に咥えると、両手で精霊樹に触れ、破壊スキルを発動させた。
破壊スキルの発動に合わせ、僕はポーチから取り出した筒を空に向け、紐を引っ張ると、眩く輝く赤い玉が空に浮かび上がった。
眼下の砦は、こちらの信号弾に気付き、私兵たちが斜面を登り始めている。
破壊スキルの発動を示す淡い光に包まれた精霊樹が、次々に崩壊するように姿を消して――いかなかった。
「こ、壊れてない? 破壊スキルが発動してないの⁉」
「なんで? まさか、精霊樹って破壊スキルで破壊できない物とか?」
精霊樹が破壊できなきゃ、作戦は失敗だ……。
発動はしてるみたいだけど、分解されないのはなんでだ……。
淡い光がどんどんと精霊樹を包み込んでいく。
だが、破壊スキルの発動を示すような兆候は見せなかった。
「どうする? どうしようロルフ君。もう、合図の信号弾が!」
エルサさんも想定外の事態で動転しているようで、落ち着きなく周囲の様子を見まわしている。
「もう一回触れてみてください。もしかしたら、変化するかも」
頷いたエルサさんが、もう一度素手で精霊樹の幹に触れる。
淡い光が再び精霊樹を包み込み始めた。
やっぱ発動してるのか、してないのか分からない。
僕が触って再生スキルが発動すれば、発動してるんだろうけど。確かめてみるか。
淡い光を帯びた精霊樹に触れる。
再生スキル
LV:25
経験値:499/504
対象物:☆☆精霊樹の苗木(分解品)
>精霊樹の苗木(普通):74%
>精霊樹の苗木(中品質):54%
>精霊樹の苗木(高品質):24%
>精霊樹の苗木(最高品質):14%
>精霊樹の苗木(伝説品質):4%
発動した⁉ ってことは、破壊スキルは発動されたんだ。
もしかして、デカすぎるものを破壊すると、消えるまでそのまま留まるのかも。
でも、再生スキル発動させちゃったから、放置しても消えないよなぁ。
だったら、伝説品質を狙って失敗させれば、黒い灰になって精霊樹も消えるはずだよな。
「エルサさん、再生スキルが発動してるんで、この精霊樹の再生を失敗させます! そうすれば、再構成に失敗した精霊樹は消えるはず! いつでも逃げ出せる準備しといてください!」
「え? あ、うん! 分かった!」
伝説品質を意識して、再構成をする。
眩い光が周囲を包むと、ゴゴゴと何かが崩れる音がして、淡い光を帯びた精霊樹が大きく揺れ始めた。
これで、再構成に失敗するはず!
>精霊樹の苗木(伝説品質)の再構成に成功しました。
>精霊樹の苗木(伝説品質)
>通常の精霊樹の30倍で成長する苗木。
>資産価値:不明
せ、成功しちゃった! 嘘だろ! いやいや、ここは失敗してくれないと! それに資産価値不明って!
眩い光が収まると、小さな苗木が僕の手に収まる。
と同時に経験値上限を超えたことで、身体中に激痛が走った。
「いぎぃいいいっ! いてて!」
「ロルフ君! 大丈夫⁉」
問題ないと頷き、ポーチから回復薬を取り出し、片手で蓋を開けると、中身を飲み干す。
「もしかして、ロルフ君の再生が成功して、あたしたちって、与えられた任務に失敗した?」
動揺するエルサさんの顔を見ていたら、精霊樹の揺れと何かが裂ける音が大きくなった。
「ロルフ君! 精霊樹が崩落し始めてる! 枝や幹がボロボロになって崩れていくよ!」
頭上から太い枝が僕たちの近くに落ちてきた。
「なんで、再生は成功してるのに!」
「たぶん、それの影響じゃない?」
エルサさんが、僕の手にあった苗木を指差した。
まさか、僕が苗木に再生したから、もともとの精霊樹は役目を終えて、崩壊してるってこと⁉
で、でも、これが当初の目的だったし、任務は成功したんだよね。
崩落の始まった精霊樹から葉や枝がドンドンと自分たちのいる場所に落ちてくる。
「エルサさん! ここから逃げ出しますよ!」
「うん、あとはベルンハルトさんたちが、囚われている人を救ってる間、あたしたちが少しでも目立つ行動をしないとね」
「はい! そうしましょう!」
ベルンハルトさんは、破壊したら逃げていいと言ってくれているが、ここにくるまでにエルサさんと話し合い、囚われた人を解放するまでは囮くらいは務めるつもりだった。
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