第九話 温かい手
「とりあえず、寝ちゃったから、この子をベッドで寝かしてあげないと」
エルサさんが、寝てしまった獣人の子の顔をタオルで綺麗にすると、抱きかかえて、僕たちが使わせてもらっているベッドに寝かせてあげた。
「ベッドはエルサさんとその子で使ってください。僕は床に寝袋を敷いて寝れば大丈夫だし」
「それじゃ、ロルフ君に悪いから……。あたしは猟師してたから地面で寝るの慣れてるし、寝袋でいいよ。今日はいっぱい歩いたりしたし。ロルフ君も疲れてるだろうから」
遠慮したエルサさんが、ベッドを使うことに難色を示した。
猟師だったエルサさんには負けるかもしれないけど、外での野宿生活はわりとしてたから、床で寝るのは苦にならない。
それに、自分だけベッドを使うのも気が引ける。
「はいはい、そこの2人! 2人の世界でイチャイチャしないでー。エルサちゃんは女の子の様子を見ながら一緒に寝てあげて。ロルフ君は床でよろしく! はい、準備開始!」
「「は、はい!」」
ヴァネッサさんの号令で、僕たちはそれぞれ寝る準備を始めた。
「ベルちゃんはこっちねー」
「おい、ヴァネッサ! また、勝手に私をベッドに引き込むんじゃない」
「はいはい、ベルちゃんは寝袋で寝るのはなし!」
ベルンハルトさんは、ヴァネッサさんに捕まると、そのままベッドに引きずり込まれた。
今日はヴァネッサさんが意外とベルンハルトさんに対し、積極的な気がするけど、もしかしたら持ち込まれた面倒な話のせいで機嫌が悪かったのかな……。
普段だったら、ここまでやらないはずだけども。
ベルンハルトさんたちの様子に首をひねりつつ、明日の準備を終わらせると、就寝することにした。
夜中、眠っていたら、誰かに顔を突かれて眼が覚める。
「どうしたのさ? リズィー」
目の前にいたリズィーが、ベッドの方に顔を向けた。
「あの子が、どうかしたのかい?」
リズィーが頷きを返す。同時にすすり泣く小さな声が聞こえてきた。
「いや……。こわい。くらいのいや。だれか、だれかいないの……」
寝袋から抜け出し、ベッドを見ると、悪夢にうなされているのか、獣人の女の子の閉じられた目から涙が流れていた。
たしか僕もこんなふうに夜中に泣いてたことがあったよな。
あれはたしか、両親が行方不明になったと聞かされた日だった気がする。
それまで冒険者だった両親が、依頼を受けて外に出ていても、不安と恐怖を感じることはなかったのに、行方不明になったという一言を聞いただけで、夜の闇がとても怖くて寒々しく感じ、それからしばらく祖母に一緒に寝てもらったんだよなぁ。
病気で亡くなってしまった祖母の温かい手を思い出したら、不意に視界が涙でぼやけた。
きっと、この子も何か事情があって、両親とはぐれ、寂しさと心細さと不安で押しつぶされそうなんだろう。
「大丈夫、君は一人じゃないよ。僕たちが一緒にいる」
僕は自分が祖母にしてもらったように、うなされて泣いている彼女の手をギュッと握ってあげた。
「ロルフ君、そのまま手を握って、隣で寝てあげて。そうした方が、その子も安心するだろうし。それに、あたしの場合だと、寝てる間に手袋が外れた場合に怖いからしてあげられないしね」
「で、でも、3人では狭いですよ」
「大丈夫、詰めれば3人でも寝られるよ。リズィーもそう思うでしょ?」
獣人の子の頭近くに陣取って寝そべったリズィーが、エルサさんの問いに応えるように頷いた。
僕が手を繋いであげたことで安心したのか、獣人の女のコはすすり泣くのをやめ、安心したかのように寝息を立て始める。
ずいぶんと落ち着いたようだ。狭いけど、やっぱこのまま寝てあげた方がいいかもしれないな。
「じゃあ、そうします」
「うん、そうして」
ベッドに入ると、3人と1頭で仲良く並んで眠ることにした。
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