第三話 これってデート?

「お待たせしたな。カムビオンの街の特産品。精霊樹の燻製焼きだ。こっちは、普通のやつな」


 ぼんやりと考え事をしていたら、オーダーしていた昼食を持ってきた店員の声で我に返る。


 テーブルに並べられたのは、網の上で木の板を使って焼きながら燻製した鶏肉だった。


 店員が蓋を開けると、香草や木の匂いが一気に広がる。


「うまそう!」


「うん、お腹鳴っちゃう」


「抜群に美味いと思うぞ。それにしても、ペットのやつは生じゃなくてよかったのか?」


「ええ、はい。リズィーは、生が苦手です。焼いたやつを欲しがるんです」


 最初からずっと焼いたやつを与えてたけど、生肉も食べるのかなと思って、一度出してみたら、嫌がって自分で炎を出して焼いてたからなぁ。


 たぶん、生肉は苦手っぽい。


「そうか。変わった狼の子だな。まぁ、好みはそれぞれってわけか」


「そうみたいです」


 足元にいるリズィーは、目の前の焼き肉を凝視して、よだれを垂らしていた。


「リズィー、食べていいよ」


 こちらを見上げたリズィーが頷き、皿に盛られた肉を食べ始めた。


「お二人さんも冷めないうちに食ってくれ」


「じゃあ、先にお勘定しておきます」


 僕は革袋から代金分の金貨を出すと、店員に渡した。


「ちょうどだね。ごゆっくりー!」


 代金を受け取った店員が去っていくと、エルサさんが僕の顔を真剣な表情で見つめているのに気付いた。


「どうかしました?」


「いや、今、気付いたんだけど、これってロルフ君とデートしてるんだよね?」


「え? ええっ⁉ 自由時間を満喫してるだけじゃないんですか⁉ デ、デート⁉」


「うん、きっと、デートだと思うの。だから――」


 ナイフで鶏肉を綺麗に切り分けたエルサさんが、フォークに刺した鶏肉をこちらへ差し出してくる。


「た、食べさせてもいいかな?」


 はっ! それはつまり、僕がそれを食べていいと⁉


 ものすごく光栄ですけど、本当にいいのかな?


 返答に困った僕が、キョロキョロと周囲を見ていると、エルサさんがフォークに差した鶏肉をさらに近づけた。


「はい、ロルフ君、あーんして」


 恥ずかしさと嬉しさで頬が一気に火照る。


 僕は目を閉じて、口を開いた。


 んまぁ! この鶏肉、ものすごく柔らかいし、塩気もちょうどよくて、香草の匂いと木の香りが口の中に一気に広がった!


 んまぁ! あと、エルサさんに食べさせてもらった分、さらに美味しくなった気がするぞ!


「んまぁああい! 美味しいですよ! これ! すごく!」


 エルサさんに美味しさを伝えるため、眼を開けたら、彼女はニッコニコの笑みを浮かべていた。


「そんなに美味しいんだ」


「はい! エルサさんも食べてみてくださいよ!」


「うん、じゃあ、頂くね」


 エルサさんは、自分用に切り分けた鶏肉をフォークに刺して口に運ぶ。


 美味しさを感じたようで、眼が見開かれた。


「んん! おいひい! これはおいしいね」


「でしょ!」


「これだけ美味しいなら、レシピメニューに加えようかな。ロルフ君はどう思う?」


「手間じゃなかったら、ぜひ、入れて欲しいですね」


 毎日でも食べられるくらい、脂もしつこくなくて、さっぱりとしている。


「なら、入れようかな。あたしも、これはしつこくないから好きかも」


 エルサさんは、レシピをたしかめるために、精霊樹の燻製焼きを観察し始めた。


 見たり、食べたりするだけで、大半のレシピを再現できるのって才能だよな。


 ベルンハルトさんたちも、エルサさんの作る食事に驚いてたし。


 本人は貧乏だったから、貴重な食材を美味しく食べられる方法を一生懸命に探したのが、癖になってしまってるとか言ってたけど。


「よし、たぶん作れそう。帰りに食材買い足していいかな?」


「いいですよ。食事終わったら行きます?」


「うん、そうしよ」


 それから、僕たちは食事を終え、少し休憩をすると、もう一度食材を購入しに行き、夕暮れ前には、ベルンハルトさんの紅炎の散策号が停まっている街外れの停車場に戻ってきた。


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