序章 神たちの思惑②



「イクリプス、わたしと戦う気か? 私闘は許されないはずだが、先に手を出したのはそちらだぞ」


 ドワイリスに睨まれたイクリプスは、怯えた表情を見せると、椅子の裏に姿を隠す。


「だから、この脳筋女神を呼ばない方がよかったのよ!」


「2人ともそこまで。ここは争いの場ではないからね。ドワイリスの話。信じましょう。では、今後どうするつもりか、ここで述べなさい」


 ドワイリスが、スクリーンを弄ると、映像が切り替わる。


「では、わたしの考えを述べさせてもらう。ロルフとエルサには、守護者としてサザクラインの施した中途半端な封印を解いてもらい。魔狼に封じ込めた大いなる獣を解放し、わたしが再び倒し、今度こそ完全な封印を施すつもりだ。あの世界を管理する女神として当たり前の仕事をするまでのこと」


 ドワイリスの説明を聞いたサザクラインが片方の眉を吊り上げる。


「貴方は管理世界の女神となったことを忘れているのかしら?」


「ああ、知っている。わたしが以前、神の力を行使して、大いなる獣を退治できたのは、他の管理女神の魂が存在していたからであった。あんたに名を奪われ、居ないことにされた女神がな」


「ずいぶん古い話を蒸し返すわね。あの子の力を大いなる獣が取り込むなんて、あの時の誰も予見できなかったことよ」


 ドワイリスは、怒気を発し、テーブルに自らの手を叩きつけた。


「彼女の魂を取り込んだ大いなる獣が復活すれば、わたしの管理権は喪失し、神の力をあの世界で直接行使できる。そうなれば、倒せない相手ではない!」


 ドワイリスが腹に響くような大声で話すと、部屋の中の空気が大きく振動する。


「貴方の狙いは大いなる獣じゃなくて、あの子でしょ?」


 ドワイリスが椅子に座ったまま足を踏みしめると地面が揺れた。


「わたしが彼女の魂を斬り分けるのを待っていれば、こんな事態にはならなかった! こんな事態に陥ったのは、封印を焦ったあんたのせいだ!」


「それは見解の相違よ。大いなる獣との戦いで重傷を負い、あの時の貴方は命を失いかけていた。だから、封印を強行したまでよ」


「戦神と言われたわたしが、あの程度の傷で死ぬわけがなかったのだ!」


「ドワイリス、主神サザクライン様のご聖断に対し無礼であろう。口を慎みなさい!」


 腹心のバーリガルが、睨み合う2人の間に立つ。


「だから、あの時をやり直すため、今回の件を仕組んだってことでいいかしら?」


「ああ、それでいい。きちんと、やり直し、大いなる獣を封じ、彼女の魂も回収してみせる!」


「できなかった時は、大いなる獣の影響を、他の管理世界にまで拡げるわけにはいかないから、あの世界ごと消すわよ」


「「「サザクライン様!」」」


 世界を消すと聞いたドワイリス以外の女神たちは驚いた顔を見せた。


「わたしは失敗などしない! 大いなる獣の手の内は、前の戦いで全部見切った!」


「サザクライン様! 世界を壊せば、他の管理世界にも少なからず影響が出ます! なにとぞご再考を!」


 だが、サザクラインは首を振った。


「決断は変えないわ。すでにドワイリスによって賽は投げられているもの。動き出したことは、もう神である私たちですら止められないわね」


 サザクラインの決断を聞いたドワイリスはニヤリと笑みを浮かべる。


「それでいい。あんたは黙って天なる国(ヘブンス)から見てればいいさ」


「それは貴方もよ。ドワイリス。ロルフとエルサの件は、封印が解けるまで、そっと見守るように。ただ、二人と一緒に居る魔狼の子に変化の兆候が見えれば、即座にわたしたちへ連絡を入れるようにしなさい」


 ドワイリスは、サザクラインの近くに歩み寄るとその肩を叩く。


「承知した。報告はする」


「サザクライン様! 無謀です!」


「脳筋が上手くやれるわけが!」


「こちらにも影響が出ます! せめて、すべての管理女神に事情を話し決議を取るべきかと!」


「これ以降、この話についての決定の変更は一切認めないわ」


 サザクラインの決定に対し、ドワイリス以外の女神は膝を突いて頭を下げた。


 ロルフとエルサを映した映像は途切れることなく部屋の中央に映し出されたままだった。



―――――――――――――

あとがき


スキル再生と破壊の第二章、投稿開始します。すでに、15万字分を書き終わっているため、第二章ラストまで毎日更新する予定です。

書籍になる予定はありませんが、コミカライズの原作となります。

読んで面白いなと思えば、華尾ス太郎先生によるコミカライズの電子版1巻や今月末に出る電子版2巻も購入してもらえれば幸いです。


では、ロルフとエルサの旅第二章をお楽しみください。


シンギョウ ガク

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