第四十六話 図鑑登録
ダンジョンの調査を終え、街に戻った僕たちはすぐに冒険者ギルドに顔を出した。
「おい、ベルンハルトさんたちだぞ。あの『黄金の獅子』のメンバーたちが手も足も出なかった化け物をたった四人で退治したって話だぞ」
「フィガロさんは恐怖で幼児返りしたらしいし、ガトーさんやアリアさんでも対応できなかったやつらしいじゃねえか」
「帰ってきた『黄金の獅子』のメンバーに聞いたが、ロルフとあのお嬢ちゃんもベルンハルトさんたちに劣らず活躍してたらしいぞ」
「うっそだろっ! あのロルフだぜ? あ、あれか、ベルンハルトさんの金で装備を刷新したからか? 特殊な装備を使ったんだろ。じゃなかったら、ロルフが化け物級の魔物になんて挑めるわけねぇ」
冒険者ギルドに顔を出すと、中で休憩をしていた冒険者たちの視線に曝される。
すでに、先に帰っていた『黄金の獅子』のメンバーたちにより、奇怪な魔物との戦いの様子を伝えられていたらしく、興味の視線がこちらに向けられた。
そんな冒険者たちの視線を受けながら窓口に向かうと、ギルドマスターであるフランさんが、こちらを見つけ、窓口から出てきて頭を下げた。
「ベルンハルト殿、ご無事の帰還をされたようで……。途中、フィガロ殿が探索の途中で横槍を入れたそうですが、我がギルドとしては彼らには探索依頼を出していないことだけは理解して頂きたく……」
「フラン殿がフィガロ殿の横やりに関わっていないことは分かっております。それよりも、ご依頼の件が終わりましたので、確認のほどよろしくお願いしますぞ」
「承知しました。すぐに確認作業をさせてもらいます。二階の個室を用意してますのでこちらへどうぞ!」
申し訳なさそうに頭を下げ続けるギルドマスターのフランさんに勧められ、二階の個室へ移動することにした。
個室で対応してもらえるなんて、やっぱベルンハルトさんたちってすごいや。
僕とエルサさんだけだったら、窓口で対応されてただろうな。
案内をされた二階の個室は、特別室と呼ばれ、椅子一つとっても豪華の調度品が使われており、貴族、大商人からの依頼を受ける際に使われる場所だった。
「さて、調査報告をさせてもらうとしよう。フラン殿より依頼を受けたアグドラファンの街の近郊で発見されたダンジョンは、ドワイリス様に縁の深い人が葬られた墓所であることが判明した。名前までは確認できなかったが、ドワイリス様と同格の者である可能性が高い。つまり、創世戦争時代の古い遺跡かと思われる」
「創世戦争時代の古い遺跡ですか!? そんな古い時代の墓所が今まで誰にも見つからずにあったとは……」
「見つからなかったのは、正規の入口がヴァン湖の崖の下にある小さな亀裂の奥だったことが最大の理由かと。湖面からも崖の上からも入口は見えないと思われるので」
「ヴァン湖に正規の入口が……」
「それと、すでに遺跡の一部は、大雨による湖面上昇によって流入した水に浸かって水没していた」
「ロルフ君たちが報告を上げてくれた水没区画の水は、ヴァン湖から流れ込んだものということですね。それにしても、ここに書かれている仕掛けは本当ですか?」
ベルンハルトさんの報告を聞いていたフランさんが、例の魔物を倒さないと開かない扉の仕掛けと少女像があった部屋に下りる階段の仕掛けが描かれた地図を見て唸っていた。
「ああ、そうだと思う。ロルフ君たちが事前に見つけていた崩落部の入口と祭壇のある部屋へ繋がる壁の破壊箇所がなかったらと思うとゾッとする仕掛けだ。制作者は侵入者を逃がす気がないように思えた」
「ですが、ベルンハルト殿たちのおかげで罠に関してはほぼ無害化されたと見てよろしいでしょうか?」
「守護者と思われる魔物は排除したし、ロルフ君たちが見つけた裏口から脱出できるので、閉じ込められる可能性はほぼないと思う」
「承知しました。探索を依頼したダンジョンの詳細マップに関して問題はないと思います。続いて魔物のほうですが……」
「例の複数の特徴を持つ魔物の件は、もう噂になっている様子だが?」
「ええ、戦闘特化の『黄金の獅子』ですら歯が立たなかったとかいう魔物。すでに冒険者たちは複数の能力を持つという意味で『キマイラ』という名を付けたらしいです。冒険者ギルドとしても新種の魔物『キマイラ』として図鑑登録をしようかと思っていますので、情報を提供してもらえると……」
図鑑登録される新しい魔物か……。
たしか発見者は図鑑に名前が残るんだけど、この場合ベルンハルトさんになるんだろうな。
十数年に一度くらい新種の魔物が発見されることもあるため、図鑑に名前を残すことは冒険者の中でも誉と言われることであった。
「承知した。では、発見者のロルフ君がフラン殿にキマイラのことを詳細に説明してくれたまえ」
「え? 僕がですか?」
「ああ、そうだ。私は戦うので精いっぱいで詳しく見ている余裕はなかったのでね」
ベルンハルトさんが視線で『発見者の栄誉を君に譲る』と言っている気がした。
「わ、分かりました。謹んで報告させてもらいます。キマイラと呼ばれる魔物は獅子と山羊と大蛇の特徴を併せ持つ複合魔物でした。胴体は獅子のため俊敏であり爪は鋭く、尻尾として生えている大蛇は口から毒の息を周囲にまき散らし、山羊の頭は角から雷の魔法を打ち放ち、獅子の口からは高熱の火の塊が吐き出され着弾すると周囲に高熱の爆風をまき散らします。あと、近接攻撃をしようとすると身体に炎をまとったりもしますね」
戦った時、キマイラが使った攻撃を列挙していったが、言ってる自分ですら信じられないほど多彩な攻撃能力を持つ恐ろしい魔物だと思えた。
「そ、そんな強力な魔物が存在するとは……。ベルンハルト殿たちが一緒に戦っていなければ、ロルフ君の言葉は信じられなかった」
「フラン殿、その魔物は間違いなく存在していた。これがそのキマイラが変化した素材だ。三つの素材を落としている」
ベルンハルトさんが討伐の証拠としてテーブルの上に出したのは、キマイラの素材だった。
「素材が三つも……。分かりました。こちらは別途買い取らせてもらいます。それと、図鑑登録者は報告をしてくれたロルフ君という形で大丈夫ですか?」
「ああ、それで大丈夫。素材の買い取りに関してはフラン殿にお任せしよう」
「承知しました。では、すぐに素材の査定と報酬をお持ちしますので、ここでしばらく食事でもしてお待ちください」
フランさんが席を立つと、個室の扉が開き受付嬢の人たちが手に食事を持って並んでいた。
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