第四十三話 救出



 安全確認のため、広い室内をくまなく調べ終えると、『黄金の獅子』のメンバーたちが立て籠もった小部屋を一つずつ解放していく。



「ああ、ロルフか……助かった。やたらと強くて変な魔物が暴れまわってたんで生きた心地がしなかったぜ。しかも小部屋の扉を締めたらこっちからは開かなくなったし、このまま閉じ込められるかと思った」



 小部屋にいた冒険者が、広い空間に飛び出してくると大きく息を吸って身体を伸ばした。


 小部屋は空気孔こそ整備されているものの、大人が三人入ると身動きがとれないほど狭い部屋になっている。



「魔法は使うわ、毒の息は吐くわ、炎を身体にまとうわで、オレらは全く歯が立たなかった」


「幸い逃げ込める場所があったから助かったがな」


「ところで、あの化け物をロルフがやったのか?」



 助けた冒険者は、以前『黄金の獅子』に所属していた時の顔見知りの冒険者たちだった。



「そんなわけないじゃないですか。僕じゃなくて、ベルンハルトさんとヴァネッサさんがいたから倒せたんですよ。僕はお手伝いしただけです」


「だ、だよな。さすが『冒険商人』ベルンハルトと『青の大魔術師』ヴァネッサだけのことはある」


「うちのガトーさんやアリアさんも強いけど、ベルンハルトさんたちの強さは別格だよな」


「最強生物である竜を狩るし、未探索のダンジョンでも余裕で帰還してくる猛者だしな」


「ロルフがなんで『冒険商人』に加入させてもらってるのか分からんが、上手くやったな」


「はい、ベルンハルトさんたちには拾ってもらった恩があるので頑張ろうと思います」


「おう、そうだな。うちから追放された時みたいなことにならないようにしないと」



 冒険者たちは僕がスキルを発動させられず、能力的にも身体的にも劣っていると思っているため、こちらの言葉に納得をした。


 それからも、次々と小部屋に立て籠もった『黄金の獅子』のメンバーを解放していったが、先ほどと同じようなやりとりが繰り返されることとなった。


 隣で黙って話を聞いているエルサさんは不満そうだったが、能力の件は命に関わるため秘密にするようベルンハルトさんたちからも言われているためしょうがない。



「最後、ここが一番激しくひっかき傷が残ってる小部屋ですね」


「他の者たちから聞いた話だと、現れた魔物がしつようにフィガロ殿をつけ狙い攻撃を続けたそうだ。ガトー殿もアリア殿も護衛をしながらでは実力の半分も出せなかったのだろう」


「なんで、魔物はフィガロを狙ったのかしらね?」


「助けた人が言ってたんですが、とっても目立つ彼の金色の鎧に反応したんじゃないかって話です」


「ああ、光り物が好きだったのね。でも、これであの坊ちゃんも舐めた装備をすると命取りだって分かったかも。竜の前でピカピカ光ってたら命がいくらあっても足りないわよ」



 そう言えばフィガロさんは依頼を遂行する時、目立つ金色の鎧を着ているのをガトーさんが陰で色々と言っていたな。


 装備の色一つで魔物から狙われてる危険度が変わるというのは、覚えておかないと。



「まぁ、それは彼が一番分かったことだと思う。早く救出してやろう」



 ベルンハルトさんに促され、傷だらけの小部屋に通じる扉を引く。


 中には金色の鎧をきたフィガロさんと、ガトーさん、アリアさんが身を寄せ合っていた。



「やだぁ、もう帰るぅ! 二度とダンジョンになんか入るものかー!」



 涙と鼻水で顔がべしょべしょになったフィガロさんが、狭い小部屋から飛び出してくると子供のように地面に転がって喚いた。


 閉じ込められた緊張感と魔物に襲われ命の危険を感じたことで、子供に戻ってしまっているようだ。



「ベルンハルト殿、すまん、助かったぞ。さすがに閉じ込められるとは思わなかった。フィガロさんは閉じ込められてすぐにあんな感じでずっと喚いていて、漏らされたしな。地獄の空間だった」



 漏らした? ああ、恐怖で失禁したということか。


 そういえばズボンの股間あたりが濡れて色が変ってる。



 ガトーさんの言葉を聞いたエルサさんが必死で笑いを堪えていた。



「雇い主じゃなかったら半殺しにしてるところだけども、雇われの身としては文句は言えないからね」



 アリアさんも地面に転がって喚いているフィガロさんを呆れた顔で眺めていた。



「三人とも無事でよかった。とりあえず、入口までの安全は確保してあるから、早々に彼を連れてこのダンジョンを退去したまえ。今回の救出に関しての報酬はこのダンジョンの探索依頼を達成した後で請求させてもらうつもりだ」


「ああ、ベルンハルト殿相手に料金を踏み倒す勇気はオレにはないさ。フィガロさんにも正気に戻ったらきちんと伝えておく。が、なるべく安めの報酬にしてくれると助かる。雇い主が金に渋い男なんでね」


「よかろう。彼の父とはこれからもいい商売をしたいのでね。格安料金で請求させてもらうとしよう」


「ありがたい。アリア、仲間に水中呼吸の魔法を頼む。フィガロさんはオレが担いでいく」


「了解、みんな引き上げるわよ」



 地面で転がって喚いていたフィガロさんを、ガトーさんが担ぎ上げると、魔法をかけてもらった人から順番に広い部屋から退去していった。


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