第二十五話 報告

 ベルンハルトさんたちが、フィガロさんによって連れさられたので、僕たちはそのまま冒険者ギルドに依頼の達成とダンジョンの発見の報告にきていた。



「ロルフ君、アグドラファンの街の近くに、スケルトンが出るダンジョンができてたって本当なの?」


「ええ、まぁ、はい。誰かのお墓だったのが、出入り口の水没とともに、誰もこなくなってダンジョン化した感じでしたけど」



 例のダンジョンで討伐したスケルトンの骨片を、カウンターの上に並べていく。



「街の近辺にスケルトンが出る場所なんてないものね。場所とかってわかるかしら?」



 骨片を見た受付嬢は、カウンターの上に街の周辺地図を広げてきた。



 薬草類の採取地はこの辺だから、そこから森の方へ進んで行って……。


 たぶん、この辺に穴ぼこができてるはず。



 筆を借りると、ダンジョンと繋がったと思われる穴を作った場所に印を打った。



「ここに穴ができてて、這い出そうとしたスケルトンを見つけて、ダンジョンの存在に気付いたんです。ね、エルサさん」



 リズィーが他の冒険者に悪戯をしないよう自分の膝の上に乗せ、隣で話を聞いていたエルサさんに場所の確認を求めた。



「ええ、ロルフ君の言ったとおり、その辺りでスケルトンと遭遇し、ダンジョンに繋がる穴を見つけました」



 本当はエルサさんの破壊スキルで地面を抉った影響だけど、そんな話を今ここですれば、僕がレアスキルを授かった時みたいな騒動がまた起きて、色々と面倒なことに巻き込まれそうな気がしているため、スキルの力は内緒にすることを彼女にも伝えていた。



「これだけ街に近い場所で、スケルトンが出るダンジョンとなると、きちんと隅々まで捜索しておいた方が良さそうね。それにしても、こんな近い場所とは……」


「いちおう、軽く中の探索はしておきましたけど。壁に仕掛けが施されてたり、水没してる場所があったりして、まだ未発見の区画が残っているかもしれないです。これはとりあえず、僕たちが探索を終わらせた場所です」



 探索をした箇所をまとめた紙と、簡易的な地図をカウンターの上に出す。



「警報罠? 壁に仕掛け? 祭壇? 石像? お墓みたいな感じだったの?」



 ダンジョン内で起こったことをまとめた紙に、視線を落としていた受付嬢は僕が感じたのと同じ感想を口にしていた。



「たぶん、誰か偉い人のお墓みたいな感じでした」


「偉い人のお墓……。冒険者ギルドすら把握してないお墓の存在がまだあったとはね。とりあえず、ギルドマスターにも報告を上げておくし、明日にでも別の冒険者を派遣してダンジョンの確認ができたら、発見報奨金として一〇万ガルドを支払うわ」


「一〇万ガルド!? そんなに!?」


「ええ、下手すれば街の危機に発展しかねないダンジョンの発見ですもの。ギルドマスターも、ロルフ君の功績に報いてくれると思うわよ。それにしても、立て続けの大殊勲ね」


「ダンジョンを見つけられたのは、エルサさんのおかげですから」


「あら、じゃあ彼女にもダンジョン発見の功績者として名前を入れさせてもらわないと」


「はい、そうしてください。僕一人じゃ見つけられなかったし、探索もできなかったと思うんで」



 エルサさんの破壊スキルがなければ、水没までしていたダンジョン内の仕掛け壁を突破するのは難しかったのは事実だった。



「あ、いや。あたしはロルフ君の後ろについて行っただけだから……」



 膝の上で丸まっているリズィーの背を撫でていたエルサさんは、謙遜するように手を振っていた。



「大丈夫、連名にして報告を上げておくわ。さて、じゃあ、あとは今日受けていった依頼の方だけど、薬草の採取と――」


「あっー! ゴブリン討伐っ!」



 受付嬢の人が今朝受けた依頼の話を始めた時、自分が初めて討伐系の依頼であるゴブリンの討伐依頼を受けていたことを思い出した。



 ダンジョンを発見したのに興奮してて、すっかりと忘れてた!


 これって依頼失敗になるんだろうか?



 恐る恐るゴブリン討伐を忘れていたことを、受付嬢の人に切り出していく。



「あ、あ、あの。薬草採取は達成したんですけど、今朝受けたゴブリン討伐の依頼の方は、実は忘れてて……」


「あら、そうなの。まぁ、緊急性の高い依頼じゃないし、明日に持ち越しでも大丈夫よ」



 ゴブリン討伐は期日が切られてない依頼だったから、未達成にはならなそうだ。


 明日、あらためてゴブリンを討伐しに森に行こう。



「それよりも、こっちの素材はどうする? 買い取りした方がいいかしら?」



 いきなり討伐未達成という実績を作らずに済んで、ほっと安堵のため息を吐いていると、受付嬢の人はスケルトンの骨片をどうするか聞いてきた。



 合成素材として何か使えるかもしれないから、手元に置いておきたいけど、普通素材を売らない冒険者はほとんどいないしな。


 魔結晶の方は、再生スキルの経験値に回すつもりだし、素材は一つだけ残して、あとは売却するか。



「討伐した記念として、一つだけ手元に残して、あとは売却させてもらいます」


「じゃあ、これはロルフ君へ返却ね」



 受付嬢の人から骨片を一つ返してもらい、別に受注していた依頼の対象物である薬草をカウンターの上に出した。



「じゃあ、スケルトン五体分と薬草採取の代金で、七〇〇〇ガルドになるわ」



 受付嬢の人は慣れた手つきで、さらさらと精算書に内訳を書いていく。



 スケルトンの骨片は一つ一〇〇〇ガルドか。


 なかなかいい値段のような気がする。



 精算書とともに、代金七〇〇〇ガルドが入った革袋がカウンターの上に差し出された。


 精算書の内容を確認し、代金に間違いがないかを確認していく。



「問題ないです。ありがとうございました」



 確認を終え、精算書の下にサインを入れると、革袋を受け取った。



「はい、お疲れ様! また、明日もよろしくね」



 精算書を受け取った受付嬢の人は、買い取った素材を抱えると奥の部屋に消えた。



「さて、精算も終ったし、ちょっと遅くなったけど夕飯にしようか。エルサさん、何かたべたいものとかある?」


「あたしは特に好き嫌いはないから何でも大丈夫だけど、リズィーが食べられそうな物があるといいなぁ。狼とはいえ、まだ子供だから柔らかい物かしらね」



 エルサさんの膝の上で丸まっていたリズィーは、お腹が空いたとでも言いたげに彼女の手袋を甘噛みしていた。



「リズィー、その手袋はエルサさんの大事な手袋だから、噛んじゃダメだぞ。すぐにご飯にするからな。エルサさん、リズィーも待ちきれないみたいだし、そこで夕食にしますか。安くて、量もあるし、美味しいですから」



 手袋を噛んでいたリズィーを抱き上げると、冒険者ギルド内に併設された酒場兼食事場所に視線を向けた。



「そうね。昨日みたいな宿だと何を食べてるか分からないほど緊張しちゃうから、あたしとしてもああいったところの方が落ち着くかも。じゃあ、先に席取ってくるから食事はロルフ君が選んできて」



 それだけ言い残すと、エルサさんは精算のラッシュでごった返すギルド内の人波を掻き分けて席の確保に向かっていった。

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