第十七話 装備更新



 素材を換金したお金で、冒険に出る前にエルサさんと自分の装備を整えるため、冒険者ギルドの隣にある武具屋の前にきていた。


 武具屋が混むのは昼過ぎからで、朝のラッシュが終わった今の時間帯は暇な時間だった。


 空いている店に入ると、カウンターの上に昨日のゴブリン軍団とオーガが持っていた武器を入れたバッグを置く。


 店番をしていた男性が、バッグに入った武器を見て怪訝そうな顔でこちらを見てきた。



「すみません。こちらの武器を売却したいんですけど査定してもらえますか?」


「は? 査定? こんなに? みんな新品みたいだが」


「ええ、全部お願いします」


「少し時間をもらうぞ」



 店番をしていた男性は、バッグの中の武器を取り出し査定を始めたので、査定を待つ間、自分たち用の武具を探すことにした。



「ロルフ君、この剣一〇〇〇万ガルドだって! 魔法剣ってそんなにするんだ」



 初めて武具屋にきたエルサさんが、キョロキョロと店内の品を物色していた。



「魔法が付与された武器とか防具は、品数が限られてるから基本的に高値取引されてるって聞いたことがあります」


「へぇ、そうなんだー。でも、あの剣よりロルフ君の剣の方が強そうだよね」


「ただの鉄の剣ですから、どっちが強いかは分かんないですけどね」



 魔法の効果は乗ってないけど、伝説級の品質なだけあって、目の前に飾られている魔法剣よりも刀身の輝きは勝っていた。


 僕たちの話を聞いていたらしい査定中の店番の人が、咳払いをしてくる。



 身の丈に合わない装備を見てないで、自分たちの懐具合で買える武具を見ろということかな。



 店の人の無言の圧力を感じたので、魔法剣に興味を示すエルサさんの手を引いた。



「さて、エルサさんの装備は何がいいですか? 予算的には二五万ガルドくらいありますけど」


「ロルフ君、あたしたちに新品はもったいないよね。あっちのやつとか見てみる?」



 たしかに再生スキルで新品にできるし、わざわざ新品を買う必要もないよな。


 二人で生活していくにしても、お金はかかるだろうし、少しでも節約した方がいいか。



 彼女の手を引いていた僕は、逆に引っ張られる勢いで、武具屋が買い替えで引き取った中古品を積んだ一角に移動していた。


 中古品は新品とは違い、半ば打ち捨てられるように、乱雑に積み上げられていた。



「やすーい。これ新品の一〇分の一の値札がついてるよ。あたし、猟師してたから弓の扱いには多少の自信があるんだよね」



 エルサさんが手に取ったのは、使い込まれ弦が緩み、錆が浮いていた鋼鉄の弓だった。



「中古でもかなり程度が悪いやつみたいですしね。気に入ったならそれにします?」


「大きさも重さもちょうどいいみたいだし、武器はこれにしようかな。あと、矢筒入れとか矢は――」



 積み重なった中古品の中から、エルサさんが必要な装備を漁っていく。


 中古品の山を掻き分けて、ボロボロになった革の矢筒と錆の浮いた鉄の矢の束を見つけ出していた。



「これだけ全部まとめても二〇〇〇ガルドにしかならないんだけど。安いよね。普通に新品買うと二万ガルドを超えちゃうし」


「普通の冒険者はよっぽどじゃない限り、中古品でもそんなに程度の悪いのは買わないと思うからね」



 エルサさんの選んだのは、特に程度が悪いやつだけど、再生したら新品になるんで問題ない代物だよな。



「防具とかは何がいいかな? 獣を追って山に入る時は金属の匂いで気付かれないように革製だったけど。魔物とかと戦うとなると金属製がいいのかな?」


「金属の方が身を守ってくれるんでいいと思いますけど、弓を引くなら軽くて身軽な方がいいと思いますよ」



 弓を引くエルサさんに、魔物を近づけさせる気は毛頭ないけどね。


 魔物の注意は僕が引き付けるつもりだけど、万が一を考えれば金属製で防御力はある程度あって欲しいかな。


 でも、弓とかも重そうだし、部分的に身を守る鎧を着けて、動ける方がいいはずだ。



 魔物との戦闘経験は昨日までなかったけど、冒険者だった両親に装備に関する知識を教えてもらうのをねだっていたのが役に立っていた。



「じゃあ、体に合いそうなこの鉄の胸当てと、鉄の脛当てくらいにしとくね」



 体形に合いそうな防具を中古品から選び出すと、エルサさんの一通りの装備が揃った。



「あとは、ロルフ君の分だね。剣で戦うんだよね? 怪我しないように全身鎧にする?」


 エルサさんが中古品の山から引っ張り出したのは、とても重そうな全身を包む鎧であった。



 さすがにあれは重すぎて動けなくなっちゃうよ。


 筋力はあんまりないし。



「エルサさん、それはちょっと僕には重すぎる鎧かな」


「じゃあ、こっちの革製の部分鎧とかにしとく? これなら軽いから着ても大丈夫よね?」



 彼女は、僕が筋力不足で全身鎧を着れないと見ると、すぐに中古品の山から新たな鎧を探し出してくれた。



 あれくらいなら重さも気にならないと思うし、致命傷になりそうな場所は守れそうだ。



 エルサさんが持っていた革の部分鎧を受け取る。



「あとは、小さめの盾とか欲しいかも」



 鎧を受け取ると、中古品の山から転がり落ちていたボコボコになった鉄の円盾も一緒に拾い上げる。



 そろそろ、査定も終ったかな。


 買い取り代金と差し引きで、これをもらっていくとしようか。



 チラリとカウンターに目をやると、ちょうど店番の人が武器の査定を終えたようで、こちらと眼が合った。



「査定は終わったよ。みんな新品同様の綺麗な武器だから、全部まとめて一〇万ガルドでどうだい?」


「その金額で大丈夫です。こちらの中古品の分の値段を引いてもらっていいですか?」


「二人とも変ってるな。もうちょっと程度のいいのがあっただろうに、なんでそんなオンボロを買うんだ? 今の買い取り分を予算にするなら新品でもお釣りが来るぞ」



 かなり程度の悪い中古品を手にしていた僕たちを見た店番の人は、怪訝そうな顔を見せていた。



「お金は大事に取っておきたいので、僕たちはこっちのでいいんです」


「そうやって装備をケチったやつから死んでいくからな。忠告として言っておくが、装備に金はかけた方がいいぞ」



 店番の人が言ったことは、両親が何度も言っていたことであった。


 装備代をケチって肝心な時に、物の役にも立たず、即死した冒険者もいっぱいいたと聞かされている。



 装備代にはお金をかけるつもりだけど、街の近辺を回るくらいなら十分な装備だと思う。


 ボロボロでも自分たちで新品にできるしね。



 再生スキルで、再生させること前提なのでどれだけオンボロの物であっても問題にはならなかった。



「ご忠告ありがとうございます。稼いだらまた装備を更新にきますよ。エルサさんもカウンターの上に装備を置いて」



 自分の分とエルサさんの分をカウンターの上に置き、買い取り品の査定額から代金分を引いていってもらうことにした。


 店番の人は一個ずつ値札を見て、金額を書き留めていく。


「そうしてくれ。それと、持ち込んでくれた武器は新品同様でいいもんだったから、また貯まったら売りにきてくれよ。その時は少し色を付けてやるからな。よし、計算終わり。差し引きで九万五〇〇〇ガルドをうちが支払うよ」



 店番の男は計算した紙をこちらに見せてきた。


 やっぱり程度が悪いのが多いから激安だな。


 新品で買ったら、買い取り代金の半分以上は消えてたかも。



 店番の人から差し出された紙に書かれた値段を見て、計算が間違っていないことを確認した。



「ありがとうございます。それで大丈夫です」



 店番の人から代金をもらうと、商品を受け取って依頼を遂行するため、街の郊外に向かうことにした。

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