sideエルサ:初めてのお泊り


※エルサ視点



 ロルフ君が連れてきてくれた宿は、一泊何万ガルドもするとても高級な宿で、案内の人に連れられて来た部屋は、とても広くて豪華な調度品が並んでいた。


 用意されていた豪華な夕食も終え、先にお風呂を終えたロルフ君と入れ替わるように、あたしは部屋に備え付けられた浴室に来ていた。



「お湯がいっぱいだし、石鹸まで完備してある……」



 浴室内は広く、湧き出しているお湯は、湯気をもうもうと上げながら浴槽から溢れていた。


 白い手袋を外すと、破壊スキルが発動してしまうため、着用したままの入浴であるが、手袋は濡れもせず、汚れも匂いもつかない特別な品物であった。


 備え付けの木の桶に浴槽のお湯を汲むと、身体にかける。



「あったかい。こんなに贅沢していいのかな……」



 布で石鹸を泡立てると、しばらく水浴びもしてなかった身体を綺麗にしていく。



 石鹸も何か香料が入ってるみたいでいい匂いする。


 さっきまで気にせずにロルフ君に抱き付いてたけど、やっぱ匂いはしてたはず。


 綺麗にしておけば、ロルフ君に抱き付いても不快に思われないよね。



 ロルフ君を抱きしめていた時のことを思い出していると、身体が熱く火照る。


 破壊スキルを持つ忌み子の自分が触っても、絶対にスキルが発動しない運命の人であるロルフ君は、年下で女の子かなと思う可愛い顔立ちをしてる華奢な子だけど、一目見た時から惚れてしまった子だった。



 ロルフ君を見た時に身体が痺れるような感覚が、恋したってことだよね。


 神官様もあたしのスキルが通じない人が、運命を開いてくれる大切な人になるって言ってたらしいし。



 初めて発動した破壊スキルで、凄腕の猟師だった父の片腕を消してしまい、それからも触れる物全てを消し続けていた。


 そんなあたしに、神官様から託されたあの白い手袋を、父がくれたことで、まともに生活がおくれるようになった。


 その神官様の言葉であるため、破壊スキルの発動しないロルフ君は、あたしにとって特別な人だった。


 ていねいに石鹸の泡を身体に染み込ませ、泡だらけになった身体に木の桶に汲んだお湯をながしていく。


 綺麗に身体と髪を洗い終えると、あたしは浴槽の湯に身体を沈めて物思いにふけっていた。



 猟師をして生計を立ててたから、弓を引くため筋肉がついちゃってるけど、胸の大きさにはちょっと自信はある。


 顔は……自信ないかな。


 街に住んでたロルフ君は、きっと可愛い女の子とも知り合いだろうし、田舎の村で男勝りに猟師をしてたあたしみたいな子に好かれて困惑してないかな。


 ロルフ君は、本当はどんな女の子が好みなんだろう。


 身長はあたしの方が大きいけど、小柄なロルフ君は気にしてるかも。


 人前で抱き付くのはやめた方がいいのかな。


 絶対に消えないって分かってる人だから、嬉しい時とかすぐに抱き付いちゃうけど、あれも嫌がってないとは思いたいけど。


 ロルフ君を抱きしめてる時、幸せだなぁって感じられるから、できれば続けさせて欲しい。


 そういえば寝室のベッドは大きかったけど一つしかなかったし、あれにロルフ君と一緒に寝るとなると、つまりはそういうことになるかもしれないし……。


 ああ見えても、ロルフ君も男の子だし、やっぱりそういうことにも興味があるお年頃のはず。


 あたしの方が年上だし、こっちから誘った方がいいのかな。


 いやでも、あたしもそういうことしたことないし……。


 ああ、どうしよう考えてたら緊張してきちゃった。



 湯船に浸かっていると、お風呂から上がった後のことを考えてしまい、顔が火照るのを感じられた。


 のぼせそうになったので、浴槽から出て脱衣所に戻ると、着替えとして用意されていた衣服に目を落とす。



 すごいいい生地を使ってる肌着だ。着心地が違う。


 これで少しは女の子っぽく見えるよね。



 用意されていた衣服に袖を通すと、鏡に映る自分の姿を確認していた。



 お化粧の仕方も覚えた方がいいよね。


 落ち着いたら、誰か教えてくれそうな子を探そう。



 今まですっぴんのままずっと生活してきたけれど、自分の中に好きな人に少しでも良く見られたいという気持ちが芽生えてきていた。



 よし、でも今日はこれでロルフ君の前に行くしかない。


 頑張るぞ!



 頬を自分の手で軽く叩いて、気合を入れると、脱衣所のドアを開け、ロルフ君のいる部屋に戻った。



「ロルフ君、お風呂出たよ」



 広い部屋の中に視線を巡らせるが、ロルフ君の姿は見えないでいる。



 もしかして、もう寝室で待ってるのかな。


 はぁ、緊張する。


 急に迫られても焦らないでいいように、まずは落ち着こう。



 誰もいない部屋の中で、あたしは深呼吸をすると、自らの胸を手で軽く叩き、心の準備を終えた。



「ロルフ君、入るよ」



 寝室のドアをノックし、ドアを開けて中に入ると、ベッドの上には先にお風呂を済ませていたロルフ君が待ちくたびれたのか、スヤスヤと寝息を立てて眠っていた。



 少し、お風呂の時間が長すぎたかも。


 疲れて寝ちゃってるみたいね。



 ベッドで寝息を立てるロルフ君の隣に座ると、彼の寝顔を見て、今までの緊張が嘘のように吹き飛んでいた。



 今なら、熟睡してるみたいだし、膝枕しても大丈夫よね。


 近くでロルフ君の寝顔をまじまじと観察してみたいし。



 熟睡している彼を起こさないよう、そっと頭を持ち上げると自分の膝の上に置いた。



 やっぱ女の子みたいに綺麗な顔をしてるなぁ。


 可愛いって言うと、男の子だから怒っちゃうかもしれないけど、やっぱ可愛いよ。



 スヤスヤと寝息を立てている彼の頬を、手袋を外した指先で突く。


「エルサさん!」


「は、ひゃい!」


「エルサさんは僕が絶対に守りますから! むにゃ」



 ね、寝言かぁ。ビックリした。


 でも、ロルフ君は夢の中でもあたしのことを守ってくれてるんだ……。


 そんなに大事にされてるとか思ったら、ロルフ君のこともっと好きになっちゃうよ。



 寝顔を見ながら、膝の上に載った彼の頭を優しく撫でていく。


 しばらくロルフ君の寝顔を眺めて満足すると、彼の隣に潜りこんで一緒に眠ることにした。

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