【心理学】人間は"モラル"でさえバランスを好む【認知バイアス】

 バランスが良い。このワード、なんとなく良いイメージがあるのではないでしょうか? 人間はこころのなかで各自の『バランス』をもっています。あるルールが設定されたスポーツにおいて「このプレーまではいいけどこのプレーは許せない!」という区切り、各々で感覚が異なると思いますが、人は『各々が思う"バランスが良い"ルール』のもとで行われるスポーツを望みます。


 肝心なのは、バランスは各自の主観にあるということ。ちょうど良いと感じるバランスは人それぞれで、どの程度を良しとするのか、どこから悪いと感じるのか? といった題材は心理学の研究でもろもろ明らかになっています。今回はそんなお話をしてみましょう。




 『努力は報われる』、とても良い言葉ですね。わたしも個人的にそう思いたいところですが、これはあくまで主観的な話です。実際は努力だけじゃどうにもならないこともたくさんあるってことはみなさんもご存知でしょう。が、この『努力は報われる』という言葉はたくさんの人に受け入れられ、この考えのもと努力する人はごまんといるでしょう。


 努力という"投資"をすれば、ぜったいに報われる"回収"の瞬間がやってくる。この『バランスの良さ』を求めるのが人間の心理というものです。努力したんだから報われるべきだろと、逆に『努力報われなかった人』を目の当たりにすると、人の心には同情心が芽生えたりします。


 さて、上記の場合『努力してきた人』という認識があるからこそ同情心が芽生えるもの。その努力が場合、人間はどういった心理になるでしょうか? ああ、その人は実際に努力したと仮定しておいてください。


 『公正世界仮説こうせいせかいかせつ』という言葉があります。これはまさに『バランスの良さ』を求める人間心理で、行いには必ずそれに見合った結果が帰ってくると思い込むものです。因果応報の思想と似通ってるかもしれませんね。


 じゃあ、もういちど上記の話を見返してみましょう。本人は努力していたとして、しかしその努力は周囲の人々にまったく周知されていません。この時、周囲の人は公正世界仮説がダイレクトに影響した心理が働きます。


 その人がとても成功した時、周囲の人は「なんかウラがあるんじゃないの?」と考えガチなのですよ。権力者に気に入られたんだとか、コネがあったんだとか、運が良かったんだとか……。ああ、あくまで公正世界仮説を解説するために用意した『例』に過ぎませんが、もしかしてアナタの周りにそういった意見をもつ人、いるんじゃないでしょうか? 逆にその人が失敗や挫折を経験したとき、周囲の人は「当たり前だ」と考えてしまいます。努力すれば報われる。けど努力しなかったら報われるはずないじゃないか……実際はどうでしょうかねぇ。


 さて、この公正世界仮説は困った現象を引き起こしてしまいます。他人がなんらかの不幸に見舞われたとき、なぜか人は「きっと不幸な目に遭うだけの"何か"をしてきたに違いない」と――冗談だと思いますか? だとしたらアナタ、もしかして「イジメは悪いことだけど、イジメられてる人にもどこか問題があるでしょ」と思ったりしていませんか? もしかして「性的被害とか、被害者側だって問題あるだろ」と思ったりしていませんか?


 これが『公正世界仮説』の恐ろしさです。重ねて言いますが、これは公正世界仮説を解説するために用意した『例』に過ぎません。このパターンがすべて正しいわけじゃないので悪しからずお願いします。




 努力方面のバランス、ぜひ報われてほしいものですが、人間にはさらにとんでもない『バランスの良さ』を求める心理が存在します。それはモラル、倫理観といった概念です。


 『モラル正当化効果』について書いていきましょう。モラル感について『バランスの良さ』を求めた結果、たとえばなんらかの善い行いをして『モラルある人』を自認した瞬間「ちょっとくらい悪いことしてもいいだろ」と思ってしまうものです。ちょっとおもしろい実験を紹介しましょう。


 アメリカ、オクラホマ大学で行われた実験です。実験参加者に対し以下の設定を考えてもらいます。


① アナタが莫大な財産を相続し、慈善団体の代表が寄付を願ってきた

② アナタの友人が莫大な財産を相続し、慈善団体の代表が寄付を願ってきた


 さらに、①の場合「アナタは寄付をする? しない?」という質問を提示され、②の場合「友人は寄付をすると思う? 思わない?」的な質問をされます。それに答えてもらった後、かんたんな算数のテストを行います。


 ワケワカメな行程ですね。でもまあちょっと続きを聞いてください、驚くと思います。


 上記質問をした後の算数テスト、このなかで『いちばんカンニングが多かったグループ』はどこだったと思いますか? ――答えは『①で寄付をする意思表示を行った人』です。つまり『』ですね。数値で見ると、質問に答えてもらった後のカンニング率まさかの30%増しという結果。善いことをした後すーぐ悪いことをしてバランスをとっちゃうんだねぇ、人間って。


 これさ、場面を想定して答えてもらっただけなんですよ。つまり実際にモラルの善い行動をとってないの。それだけでこんな大きな結果がでちゃうんだからさ、実際にモラル善い行動をしたらどんだけしちゃうの? って話――これ、みなさんじつは日常ですでに経験しています。


 週末にたっぷり家族サービスしたお父さん。その後ついつい『自分へのごほうび』をあげちゃったりしませんか?


 カロリーゼロの炭酸飲料にあわせてケーキなんて食べちゃってませんか? それむしろマイナスですよ?


 昨日いっぱい運動したからって、今日はドカ食いしちゃったりしてませんか? 言うまでもなくマイナs、あ、プラスか。体重的な意味で。


 日頃から「〇〇したんだから○○くらい良いでしょ」が口グセになってませんか?


 それらはすべて、この『モラル正当化効果』が働いているかもしれませんよ? ――しつこいようですが、ここでの話は用語解説の『例』として登場させただけに過ぎません。すべてがコレに当てはまるわけでもないですが、アナタの心にほんの少しでも『心当たり』があるのなら――ちょっぴり気をつけたほうがいいかもしれませんね。




 人間の心は様々な『思い込み』にまみれています。それと認知するだけでかなり違ってきますので、常々こういった心理が人間にはあるんだと備えておいて、いざという時冷静な判断を下せるようになりたいですね。


 善い行いは自分から進んでやるもの。決して『バランス』のため行なうわけじゃないのだから。

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